第三章 ラブレターかファンレターか
第13話 ラブレターか詐欺か
翌朝、俺たちは
「なあ兄貴、あの手紙ってラブレターだよな」
「さて、どうだろう。兄弟にまったく同じ文面の手紙を渡した理由が気になるが」
「だから、僕のはラブレターで、兄貴のは照れ隠しで出したんだよ」
教科書とノートとタブレットPCと筆記具の入っているカバンと弁当箱の入っているランチボックスを提げて、高校へと向かっていく。
幸いなことに自宅から葛望学園まで徒歩二十分である。家から近い中高一貫校ということで、両親のオススメで入学したのだ。
「それだと、まったく同じ文面にする必要はないな。本命にはしっかりとした文言で気持ちを伝えようとするものじゃないのか」
「それは彼女いない歴が年齢の兄貴の考えだよね。僕には兄貴のは照れ隠しに見えるよ」
そういえば田原が言っていたな。中学生アイドルの田中絵梨香が封筒を持って高等部校舎をうろうろしていたって。
それはいつ頃の話なのだろうか。もし昨日であれば、俺たちの机に封筒を出したのは彼女の可能性も高くなる。
そうなら靖樹へのラブレターという可能性も残る。
靖樹は喜ぶだろうが、まったく別の日であれば、ぬか喜びをさせる可能性もある。この情報はまだ話せないな。
「まあ、誰が入れたのか、を調べるのが先だろうな」
「田中絵梨香ちゃんが入れたのだとすれば、やっぱりラブレターだよなあ」
「いや、からかっているだけかもしれないぞ」
「からかうって」
「もし彼女が俺たちのゲーム実況をチェックしているとしたら、俺たちはまんまと引っかかったことになる」
「絵梨香ちゃんはそんなことしないよ」
靖樹が頑ななのも仕方がないか。
小学校以来の彼女を求めているのかもしれないしな。それがアイドルなら申し分ないのだろう。
そもそもゲーム実況で有名になったのだから、近づいてくる女子も多そうなのだが。まあそんな俺自身、彼女の気配さえないからな。
靖樹に彼女が出来たのに、俺は彼女ゼロを更新するなんてことがあっていいわけがない。いえ、ありえない。
「靖樹、もし差出人が見つかって、それが田中絵梨香さんじゃなかったとしたら、お前どうする」
「どうするって。ちょっと残念だけど、彼女が出来るのはいいことだよ。学園生活も充実するからね。そもそも兄貴は一度も彼女を作ったことがないんだから、あの手紙がラブレターだと気づかないんだろうけど」
まあ確かにラブレターをもらった経験などいっさいないのだが。それでも、同じ文面の手紙はラブレターと呼べるものなのだろうか。
靖樹の言うようにこいつ宛が本命で、俺はだしに使われただけかもしれない。
でもロマンス詐欺のような気もしないではない。俺たちがゲーム実況で稼いでいるから、その金を目当てに近づこうとしているのかもしれないな。
「なにかの詐欺の可能性もあるから、誰かから近づかれたら距離をとるんだぞ」
「学園に詐欺を働くやつなんているかなあ」
「あくまでも可能性の話だ。金を目当てに近づいて、あれこれ買わせて奪い取ろうとする、なんてことがないとはかぎらない」
「もしそんなやつがいても、詐欺がバレたとき逃げ場がないじゃないか。そこまで頭のまわらないやつに騙されるかなあ」
「あくまでも用心だよ。たとえばギフト券を買わせてそれを自分のものにする。ネットでもそういう事件をよく目にするだろう」
「でも絵梨香ちゃんがギフト券なんか買わせるとは思えないんだけど」
どこまでも田中絵梨香が基準なのか。
「とにかく、なにかお金にかかわることなら近寄るんじゃないぞ」
「わかった。どうせ絵梨香ちゃんなら自分で稼いだ額のほうが僕らよりも多そうだから、お金を要求するようなこともないと思うしね」
本当に田中絵梨香からなら靖樹の言うように金品を要求してくることないだろう。でも彼女以外が出した可能性のほうが高いから、必然的に身構えることになるのだが。
田中絵梨香からだと思い込んでいる靖樹は、だからこそ詐欺に遭う危険も高くなる。
「可能性としてだが、中等部の田中絵梨香が高等部校舎に入ること自体難しいからな。それをかい潜って俺たちの机に手紙を入れるなんて芸当ができるわけがないぞ」
「あ、そうか。中等部生が高等部校舎に入るには許可が必要だもんね。僕たちが中等部校舎に行くのも同じだけど」
「だから差出人が田中絵梨香の可能性は低いって言っているんだよ。入れられるとしたら高等部のやつらだけだからな」
「高等部生か。まあ彼女ができれば誰だっていいや」
「その性格を直さないと、いつか痛い目に遭うぞ」
どこまで本気なのかは知らないが、恋愛経験のない俺には靖樹が危なっかしくてしょうがないのだが。
「とりあえず、近づいてくるやつには気をつけろよな。たとえ女子だったとしても、本気で付き合いたいと思っていると確認できるまでは親密になるなよ」
「そんなだから、兄貴に彼女ができないんだよ」
その一言は、彼女いない歴イコール年齢の俺を傷つけるにはじゅうぶんだった。
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