第40話 全員集合
七限後、部活動へ向かう者と下校する者がいる中、高等部校舎の入り口で
これで手紙をもらった全員が集まったことになる。
「それで、手紙の意味はおわかりになったのですか」
平木マネージャーがズバリ切り込んできた。
「はい、おそらくは」
「おそらく、ね。これから何度も訪ねてくることはできませんから、今回で決着してもらいたいものですわ」
「そのつもりです」
俺は自分の席に腰かけ、田原も後ろの席に着いた。そして銘々手近なところに腰を下ろした。
全員が着席したことを確認してから、状況の確認を行なっていく。
「まず田中さん。あなたは昨日の一限の授業前に、机の中に灰色の手紙があることに気づいた。そして中を読んだがよくわからない内容だった。いちおう指示された高等部校舎の生活指導室を目指そうとしたが、勝手のわからない校舎ゆえになかなかたどり着けない。そこで平木マネージャーと相談して芸能事務所の社長である学園長へその手紙を預けることにした。そうですね」
「はい、間違いありません」
田中絵梨香は頷いた。
「では佐伯くん。君は昨日の休み時間に灰色の手紙を見つけ、中を読んだが放課後は急いでチーム練習に参加するため、生活指導室へは向かわず放課後すぐに下校した。そうですね」
「ああ、そうだけど」
佐伯くんの事情も間違えではない。
「次に結城くん。君は昨日の授業が終わったときに灰色の手紙に気づいたが、なんの手紙かわからないので、とりあえず放置していた。そして田原の情報網から田中さんが出した手紙かもしれないと知った。それで情報網に確認をとってみた。そうですね」
「ええ、間違いないです」
結城くんはせわしなく辺りをうかがっている。どうやら早めに野球部に合流したいんだろうな。
「それではクイズ研究会の三名様。あなた方も田原の情報網から灰色の手紙の存在を知り、接触してきた。そうですね」
「はい、そうですけど」
三人とも首を縦に振った。
「そして僕と弟の靖樹は、昨日家に持ち帰って、動画で手紙のことを生配信しました。そこで靖樹はラブレターだと思ったのです」
「だからこれはラブレターだって、兄貴」
「靖樹、お前のもらったものがラブレターなら、同じ文面のラブレターが他に七通配られたことになる。なぜお前のがラブレターだと言えるんだ」
靖樹は首をひねっている。
「だから、俺宛のラブレターをカモフラージュするために、七つバラバラに渡されたことになるよね」
「それなら聞くが、お前にラブレターを書いたのは女性か、男性か。どちらだと思う」
「そりゃあ僕にラブレターを書くくらいだから女性だよね」
「じゃあその女性が田中さんにも同じ文面のラブレターを出した、とお前は思うのか」
「性的マイノリティーを考えればとくに不思議はないだろう」
「バイセクシャルの可能性か。確かにそれも可能性のひとつではあるな。だが、バイセクシャルだったとしても、八名同時に手紙を出したのはなぜだ」
「だから僕のがラブレターで他はカモフラージュだって」
田中絵梨香が話に割って入った。
「私宛のファンレターにいくつかそういう人がいるらしいのは平木さんから聞いて知っているのですけど。照れ隠しのために七枚もの手紙をばらまくのはやりすぎだと思います」
「どうしてさ、絵梨香ちゃん」
靖樹が瞬時に聞き返した。
「誰が本命なのかがわからなくなるじゃないですか。もし本命に偽物と思われたら、ラブレターを出す意味がないですよね」
「さすが、芸能界を生きておられるだけあって賢明ですね。そうなのです。本命に偽物と思われたら意味がないのです。だから私はラブレターという線を最初から捨てています」
俺が田中絵梨香と仲良く話しているように見えるらしく、靖樹が気を揉んでいるようだ。
「とにかく、話を先に進めてくれよ兄貴。皆そんなに暇じゃないんだから」
事実確認は全員で行なうべきだったので、それを済ませたまでだ。
「ではラブレターでないとして、この八通の手紙はなにを意味するか。考えた人はいますか」
「ラブレターでなければファンレターじゃないですか。ここにいる人たちって学校でも有名人ですから」
クイズ研究会の部長が口を開いた。
「まったく同じ文面のファンレターをもらったら、さすがに嫌がらせだろう」
「同感です。嫌がらせですよ、こんなの」
佐伯くんと結城くんが感想を述べた。
「やはりそういう結論にたどり着く人が多いと思います」
「ということは違うのか、磐田。この手紙の意味がわかったっていうのか」
「はい、それをお話しするには、皆さんに確認したいことがあります。個人の都合で話せない方もいるでしょうけど、手紙の正体を突き止めるためだと思ってご協力ください」
「聞きづらい個人情報っていうと、たとえばスリーサイズとか」
靖樹がすっとぼけたことを言った。
「男性のスリーサイズに意味があるのか」
「いや、ないね」
「だったら違うとわかるよな、靖樹」
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