第41話 犯人は
では本格的に推理を披露するか。
これが当たっているか自信はないが、自分の頭ではこれしか考えられなかった。
「これはひじょうに聞きづらいのですが、直近での収入を教えていただけますか。クイズ研究会の皆さんがクイズ番組で一千万円の賞金を得ていますから、それより上か下かで答えてください」
「年俸だけでなく契約金も込みでいいんだよな。それなら俺は上だ」
佐伯くんが口火を切った。
「僕はとくに収入はないですね。ドラフト会議前にチームから金銭を受け取るわけにはいきませんし」
「僕と靖樹はふたり合わせても下です。残りは田中さんですが」
「絵梨香さんは上ですね」
平木マネージャーが代わりに答えた。
「では上の人と下の人をまとめてみてください」
「まとめるったってなあ」
田原がまとめ役を買って出てくれた。
「えっとクイズ研究会と絵梨香ちゃんと佐伯くんが上で、
「そう、今回手紙をもらった人の中で一千万円を超える人は生活指導室へ行くように指示するコピー用紙が入っていた。それ以下かもらっていない人には入っていなかった」
「そうか、収入か」
佐伯くんに疑問が浮かんだようだ。
「ちょっと待て。収入を得ていない結城になぜ手紙そのものが渡されたんだ。収入がないという点では他の九百人と大差ないだろう」
「ドラフト会議が近いからだよ」
「どういうことだよ、
「プロ野球のドラフト会議で上位指名されたら、契約金と年俸で一千万円なんて目じゃない額が手に入る。そのドラフト候補なんだから、あらかじめ注意を喚起したかったんだろうね」
「じゃあ磐田とお前の弟はどうなんだ」
「僕たちは今のところ二人合わせても数百万円がいいところ。でもそれ以上稼ぎそうだから注意を喚起したかったというところだと思うよ」
平木マネージャーが割って入る。
「それでは絵梨香さんが社長に手紙を渡したのは正解だったわけですか」
「そうですね。一千万円以下のいくらに設定してあるのかはわかりませんが、それ以上稼いでいる人を学園側は把握して指導したい。とくに年収一千万円ともなれば、勉強に身が入らなくなる可能性もあります。学園の評判のためにも把握と指導はするべき、と生活指導の先生方は夏休み前のこの時期に手紙を入れたんだと思います。先生なら座席表を手に入れるのも簡単ですからね」
田中絵梨香がつぶやく。
「私の学年は伊東先生が生活指導の担当だから、伊東先生からだったのね」
「いえ、同じ文面というのが気になります。おそらく高三担当の豊橋先生が書類を用意して、田中さんの机に入れたのが伊東先生、ということだと思います」
「確かに、全員の手紙の一枚目は同じ文言だし、これを別人が書いたとは思えないか」
「結城くん、そのとおりです」
「じゃあドラフト指名が終わって契約が結ばれたあたりで、僕は生活指導室へ行くように指示されることになるのかな」
「ご名答」
廊下から拍手する音と聞き慣れた声がする。全員がそちらへ向き直った。
「豊橋先生」
豊橋先生がゆっくりと教室内に入ってくる。
「皆さんを直接呼び出す余裕もなかったし、お金に関する話を直接文面に書くと他の生徒の注意を惹きすぎるので、あんな文面になったんです」
「それにしてももう少し生徒にわかりやすい文面は考えられなかったんですか」
佐伯くんが不平を鳴らした。
「私は国語教師ではありませんからね。当事者だけが理解できて、一般人にはわからないような完璧な文章なんて書けませんよ」
「それで学園長から注意を受けたんですよね」
「そこまでわかるの。磐田くん、なかなかに切れ味がよいわね」
「田中さんが所属事務所の社長つまり学園長にあの手紙を渡した以上、学園長としては生活指導の先生に確認をとるはずですからね。うちのアイドルになにをしたいんだ、って」
肩を落とし気味の豊橋先生が答える。
「そうなのよ。学園長から、なんのつもりだ、ってにらまれてしまって。でも高収入の生徒が金遣いに荒くなったら、学園側も世間から叩かられるかもしれない。だから、手を打つようにって。学園長からの指示だったんですよ」
「それなら、ここにいる全員で学園長と腹を割って話したいところですね。どうせ今のままなら同じことを別々に聞かされたはずですから、一度に行なってもとくに問題はないでしょう」
豊橋先生は悩んでいるようだが、僕の意見に利を見たのか頷いた。
「わかりました。それでは皆さん、一度に面接をしますから生活指導室へ向かってください。学園長が在校中なら連れてまいりますので」
「わかりました。それでは皆でお待ちしておりますよ。佐伯くんはクラブに、結城くんは野球部に連絡を入れてください。学校で生活指導を受けるので、本日は参加できませんって」
「わかった。どうせなら今やっちまったほうが楽でいい。後日改めてなんてやっていたら、いつできるかわからないからな」
「僕もわかりました。グラウンドに行って監督とコーチに説明してきます。先に生活指導室へ行っていてください。すぐに追いかけますので。ちなみに何号室に集まればいいんですか」
「そうね。八名と私そして学園長で十名だから、いちばん大きなA号室に来てください」
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