第38話 有力説
田原はクイズ研究会に好奇心が湧いたようである。
「ちなみに番組に出て優勝したときの賞金はどのくらいもらえたのですか」
「ぴったり一千万円でしたけど」
クイズ研究会の部長はさも当然のことのように答えた。
「ただクイズに答えるだけで一千万円かあ。ずいぶんと割がいいんですね」
「全国の強豪校と競り合って、ようやく手にしたのが一千万円なのですから、まったく割には合いませんよ」
「じゃあなんで出場したんですか」
「名誉ですね。高校生クイズ大会の全国優勝なら、大学のクイズサークルでも一目置かれるでしょうから」
田原とクイズ研究会のやりとりで、俺も興味が湧いてきた。
「ちなみに参加者はどのくらいだったのかな」
「一チーム三名で確か三千チームの参加なので九千名ということになりますね」
「九千名ですか。三千チームで一千万円を奪い合うとしたら、期待値は三千円ちょっと。ひとり千円ちょっとだから、確かに割に合わないなあ」
「ですよね。磐田さんのゲーム実況だとどのくらい手に入りますか」
「毎日生配信して、月数十万円くらいかな。年間で数百万円だけど、機材代などの必要経費が結構かかるから、手取りでいうと月十万円から二十万円くらいのはずだけど」
クイズ研究会の三名は皆驚いた顔をしている。
「それだと私たちクイズ研究会よりも割がいいですね」
「でも大会ひとつで一千万円なら、ゲーム実況でもそんなに稼げないよなあと」
「確実に優勝できるのなら磐田さんのおっしゃるとおりでしょうけど、三千チームの頂点に立つ確率を考えてみてくださいよ」
「それもわかるけど、ゲーム実況だって集客できないゲームもあるから、投資自体はけっこうシビアなんですよ。だから新作ゲームはなんでも買って、生配信で盛り上がるタイトルを実際にプレーして見つけないといけないんだ」
クイズ研究会の代表がやや呆れた顔をしている
「へえ、じゃあゲームで稼ぐために、ゲームを選んでいるんですね。クイズだと広範な知識を求められるから、ゲームといっても雑誌で情報を集めることはするけど、プレーはほとんどしないですね。クイズゲームはたまにプレーするんですけど」
「じゃあ『はやぶさクイズ甲子園』ってタイトルは知っているかな」
「あ、はい。そのゲームの元になったクイズ大会で優勝したので、傾向と対策を込みでプレーしていましたよ」
どうやらクイズゲームに興味を持った田原は、ひとつ提案してきた。
「じゃあ今度ゲーム実況対クイズ王で対戦したらどうだろう。ゲームに強い人が勝つのか、クイズに強い人が勝つのか。興味があるんだけど」
「それはもちろんクイズ王が勝つだろうね。ゲームに強いけど知識がなければ正解できないんだから」
「じゃあゲーム実況よりもクイズ選手のほうを評価してくれるんですか」
「もちろん。ゲーム実況はあくまでもプレーを観てもらって楽しんでもらうジャンルだけど、博学というほどの知識は要求されないからね」
「じゃあ私たちがクイズゲームで生配信をしたら稼げるのかな」
「おそらく稼げますよ。僕はテレビをほとんど観ないんだけど、弟はけっこうアイドル番組やドラマなんかを観ているんだ。確かクイズバラエティーも観ていたはずだよ。需要はあると思うから、試しにやってみるといいんじゃないかな」
「でも先行投資を考えると手を出しづらいですね」
「最初は動画配信アカウントをとって広告収入を振り込む口座を登録、ゲーム機の映像をPCで配信すればいいだけだよ。僕も最初はそれだけで始めたから」
「今度部室でできないか、申請だけでも出してみようかな」
ちょっと悩ましい問題だな。
「校舎で金儲けはさすがに難しいと思うんだけど。自宅でやるぶんにはかまわないだろうけど」
「そうですよね。出場前の講習で、なんらかの賞金が手に入ったら報告するように言われましたから」
「賞金を報告、か。やはり
田原のその言葉に引っかかりを覚えた。
「もしかすると、それが今回の手紙の正体かもしれないな」
「
「いや、まだ完全には。ただ有力な候補が浮かんでいる。あとは手紙の関係者から情報を得て精査し、うまく当てはまれば事件解決だ。それで差出人が誰かもわかるはず」
「清樹、教えてくれないかな。差出人は。目的は」
「そう急かすなよ、田原。案がひとつしかない場合、それが外れたときの代替案が思い浮かんでいないと推理にならないんだ。だから他にも複数の案を考えつかなければならない」
「いよいよ言葉遣いが探偵じみてきましたな、清樹」
「お世辞はいいよ。では、クイズ研究会の皆さん、七限の後にお時間をいただけますか。手紙の謎を解き明かしたいのですが」
「わかりました。放課後はクイズの練習をしようと思っていただけなので。誰からの手紙かわからないのも気持ち悪いですからね」
では田中絵梨香のマネージャーである平木さんにメールを送っておくか。
すべての謎が解けるかもしれないから、七限後に高等部校舎前で待っているように、と。
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