第六章 夏も間近な空騒ぎ
第37話 絞られた可能性
田原が俄然食いついてきた。
「具体的に理由はわかっているのか」
「まだそこまではわからない。六限中に考えたうちのひとつは恋愛のセッティングだったんだけどね」
「恋愛のセッティングって、どういうことだよ
まあ恋愛と聞けば田原でなくても食いついてくる人は多いよな。
「もし田中さんと佐伯くんだけが生活指導室へ行くよう指示されていたとしたら、ふたりを付き合わせようとする何者かの仕業だろうと踏んでいたんだ。で、クイズ研究会の三名も行くように指示されていたので、この線は消えたと言っていいだろうね」
「だからクイズ研究会の皆さんに生活指導室へ行けと指示されたか確認していたのか」
「そういうこと」
クイズ研究会の部長が口を挟んできた。
「田中さんと佐伯さんならお似合いなんじゃないですか。女性芸能人がスポーツ選手と結婚した例もかなりの数にのぼりますし。それに佐伯さんってU−18日本代表ですよね。将来も有望じゃないですか」
「あれ、佐伯くんって現役Jリーガーってだけじゃなかったんだ」
「磐田さん、もしかして佐伯さんの経歴に詳しくないんじゃないですか」
「そうなんですよ。とくにスポーツには疎くって。自分でスポーツをしないから、あまりプロスポーツに詳しくないんですよ」
「であればクイズ研究会のほうが生活の役に立ちますね。僕たちは佐伯さんが日本代表だと知っていたわけですから」
「ということは、サッカーU−18日本代表選手と中学生アイドルの熱愛を演出しようとした人がいた可能性があるのか」
田原はそう判断したようだ。
「可能性があったんだけど、クイズ研究会の皆さんのおかげでそれは考慮しなくてよいことがわかったから」
「どういうこと」
「ふたりが接触する場にクイズ研究会の三名が加わったら、恋愛の演出はできないよね。まさか三名が見ている前で佐伯くんが田中さんを口説くわけにもいかないんだから」
「それもそうか。付き合わせようと画策しているのなら、余計な人を呼ぶなんてまねはしないな」
これで有力な線が消えたことになる。ただ、テレビのクイズ番組で優勝したのなら名前は売れているはずだから、マスコミ対策も必要になる。
やはりマスコミ対策と考えるのが自然なのだろうか。それに付随するなにかかかもしれないのだが。
「マスコミ対策の線はまだ残っているんだ。田中さんと佐伯くんは所属事務所や所属チームから研修を受けているから、その確認で生活指導室に呼ばれた可能性がある。もしマスコミ対策なら、僕と弟はゲーム実況をしているだけでマスコミから取材を受けたことがないから必要度は低い。ドラフト候補の結城くんも会議が近づくまではそれほど焦る必要もない」
「でも私たちクイズ研究会もテレビで優勝したくらいで、マスコミ対策をする必要はないのではないですか」
「いや、テレビに出て活躍したのであれば、学校の品位も考えないといけないので、インタビューを受けるなどしてマスコミ対策はしてあった可能性が高い」
「そういえば、大会に出る前に生活指導室でテレビに出るときの心得を教わりました」
「やはりそうですか。となるとマスコミ対策が施されている生徒をわざわざ呼び出したことになりますね。成果を知りたかったのかもしれません」
「となれば、これで一件落着だな」
「いや、そうとも言えないんだよ」
その言葉にこの場にいた全員が顔を窺ってくる。
「おそらくだけど、マスコミ対策をクイズ研究会に施すくらいなら、僕たち兄弟にもやっておくべきなんだ。身バレした時点でね」
「あ、そうか。
「そういうこと。クイズ研究会としては、今回の灰色の手紙をどう見るのかな」
三人に視線を向けた。それぞれに顔を見合っている。
「そうですね。私たちは大会に出る前に生活指導室でマスコミ対策の講習を受けました。であれば講習を受けた人が呼び出された、と考えるのが筋でしょう」
「僕もそう思います」
ちょっとした引っかかりを感じた。
マスコミ対策は確かに有力な説ではある。だが、それなら俺ら兄弟も講習を受けているはずだ。少なくとも俺にはそのような機会がなかった。なぜ講習がなかったのだろうか。
いや、もし講習であればすでに芸能事務所で受けているはずの田中絵梨香と、Jリーグ・チームと契約したあとに新入り全員が受けているはずの佐伯くんを呼び出す必要はない。
講習の中身を知りたかったのか。
いや、それなら田中絵梨香の事務所の社長はうちの学園長である。知ることなど造作もない。事務所へ情報開示をさせれば、わざわざ彼女を呼び出す道理もない。
この一点からしても「マスコミ対策」は現実的ではない。
だが、学園長が事務所へ指示を出してでも田中絵梨香から受け取りたいものがあったのだとすれば。それが答えとなるかもしれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます