第15話 誰かのいたずらなのか
朝礼の点呼が終わると担任教師の焼津は教室を出ていった。すかさず後ろの席の田原が俺の肩を叩いた。
「あの手紙さ。誰かのいたずらってことはないのか。お前ら兄弟にいたずらを仕掛けて陰で笑っているやつとかさ」
それは俺も考えていた。
「そうだよなあ。高等部三年に出す手紙じゃない。誰かがおちょくっているような気がしないでもないな」
隣の席の
「やるとしたら誰だと思う」
「そうだな。田原と長田、お前らならやりそうだ」
「おいおい、勝手に俺たちを犯人に仕立てるなよ。お前にいたずらを仕掛けて得するわけじゃないんだぞ」
「得はなくても、取り立てて損もしないだろう。こういう場合、真犯人はいちばん得するやつじゃなくて、いちばん損が少ないやつと相場が決まっているからな」
「いちばん損をしないやつ、ね。確かに
「逆に
ということは俺たちの自作自演も疑われるわけか。
視聴者を増やすためのネタとして、ラブレターが届いたと噂にする。そうなれば学園生の何人かは気になって視聴に訪れるかもしれない。
だが、少なくとも俺は手紙を出していない。となれば
あの手紙をラブレターだと頑なに信じていて、それも中学生アイドルの田中絵梨香からだと主張するのは、実は靖樹が自作自演していたからではないのか。
靖樹にとっては偽物でもかまわなかったのだとしたら。視聴者を増やして動画収入を高める。その分け前が欲しいからあえてラブレターを偽装した。
考えられない話ではない。
しかし靖樹にそれだけの知恵があるとも思えない。そこまで劇場型の詐術を行なうような人物ではないからだ。
「まあ俺も靖樹も自作自演ができる性格じゃないからな。愚直なところが俺たちの美徳みたいなものだから」
であれば、次に怪しいのはこの田原と長田ということになる。
ふたりは俺の親友ではあるが、いくらかいたずらも仕掛けてきた。今回もそのいたずらのひとつかもしれない。
だが、ふたりの反応を見ているとひじょうに関心を持っているのは確かだ。自分たちで仕掛けたいたずらだとすれば、ここまで耳を傾けて首を突っ込んでくるだろうか。
俺の目線を読んでいたふたりが口を開いた。
「俺はウソなんてつかないぞ。いたずらなんてしないからな」
「おいおい、一年生で水泳の授業があったとき、ブーメランパンツの水着でいいと言っていたのはどこのどいつだ」
「あのときは田原もノリノリだったじゃないか」
「当たり前だ。皆がプールで気持ちよく騒いでいるのに、ひとりブーメランパンツでプールから上がれなかったなんて、笑えてくるだろう」
ふたりの顔を注意深く観察しても、なにか仕掛けているようには見えなかった。
「こんな親友を持って、俺はなんて人付き合いがいいんだろうな。実際お互い助け合うから仲がいいのだろうし。今回のこともお前たちが一枚噛んでいるとは思えないし、思いたくもない」
「磐田、信じてくれて助かるよ。誓って手紙は俺の仕業じゃない」
「俺も
やはりこのふたりは関与していない。そう信じるに足る態度であった。
「それだと、誰かが俺たちの仲を裂こうとして仕組んだ、とか」
「それも考えられなくはないが、それなら靖樹にも手紙を出す理由としては弱い。俺だけに手紙を出して、俺が浮かれているところを見てほくそ笑む。そしてその手紙がウソだったとわかったとき、最初に疑われるのは田原と長田であることは疑いようもない。そこに靖樹を介在させるのは不自然極まりないだろう」
「しかし相手がそこまで見越して、あえて弟にも手紙を出したのだとすればどうだ。どのような奇策を持って堅牢な城を攻略しようとするのか。正面から無理ならからめ手で、というのが基本的に戦術だろう」
長田の言うとおりだ。俺とふたりの仲を裂いて得をする人がいるかはわからない。もちろん損が少ない人も見当たらない。それこそあの手紙がラブレターでもないかぎりは。それに、いたとしてどんな得があるというのだろうか。俺の関心を買いたいのか。二人に代わって親友の位置を占め、ゲーム実況に影響力を行使したいのか。付き合いたいのか。
そうだ。俺たち兄弟はゲーム実況という金のなる木を持っている。
俺たちに近づければいくらでもおこぼれに与れると計算する人間がいないともかぎらない。
であれば、最近俺に近づいてきたやつが犯人ということになるのだろうか。
しかし高等部三年に上がってからのクラスメートに、そのような人物は見いだせない。すでに進学を見据える年齢なだけに、ゲーム実況の視聴などにかまけているようなクラスメートはこのふたりくらいなものである。
田原は
やはりこのふたりが行なうにしてはあまりにも手の込みすぎているいたずらだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます