捕まえられるかも!

◇7月29日


 午前11時。黒の家で作戦会議が始まった。

 冷房がきいた黒の部屋に、黒と白と灰原は座っている。


 彼らはお菓子とジュースをむさぼりながら、青陽を捕えるための策を話し合っている。ちなみに三人とも制服姿である。ドキュメンタリー映画撮影のため、いつでも学校に直行できるようにしているのだ。私服では学校に入れないから。


 黒は、昨夜の出来事を二人に話した。


「もう完全にストーカーで、やばたにえん」

 白は言った。


「でも、青陽くんはどうやって黒の部屋を覗いたんだろうね?」

 灰原は言った。


「私、たぶん分かります」

 白はそう言って立ち上がった。そして窓のカーテンを開けて、外を指さした。

「屋上ですよ。ここから、海高が見えるじゃないですか。本校舎の屋上から、黒のことを観察していたのでは?」


 たしかに黒の部屋からは、高台の上の海高の本校舎を見ることができる。家々に視界を遮られているので、屋上あたりしか見えないけど。 


「本校舎の屋上からなら、ここが見えるはずです。そして青陽くんは、屋上の鍵をまだ、少なくとも一本は持っているはずです。自由に屋上に入れるんですよ」


「でも」

 黒は言った。

「ここから学校まで、直線距離にして500メートルはあるよ? マサイ族でもない限り、学校の屋上からあたしの部屋なんて覗けないよ」


「双眼鏡でも使ったんでしょ」

 白は言った。


「なるほど」


「僕も白の説に一票」

 灰原は言った。

「加えて、僕に提案があります、議長」


「発言を認めます」

 黒は言った。


「今から、本校舎の屋上に行ってみない?」


「え? あたしの部屋が本当に見えるかどうかを確かめるためにですか?」


「それもあるけど、もしかしたら、今日も青陽くんは屋上にいるかもしれない」


「なるほど!」

 黒は思わず手を打った。

「捕まえられるかも!」


「拷問道具を持っていこう」

 白は言った。

「戦争映画の捕虜みたいにしてやろう」


 三人は、今も青陽に監視されているという前提で行動した。彼は本校舎の屋上にいて、双眼鏡でこちらを見ている、と。


 だからこそ、軽率な行動は慎まなければならない。黒たちが海高の屋上に向かっていることを悟られたら、とうぜん青陽は逃げてしまう。


 作戦は灰原が考えてくれた。彼が考案した作戦はこうだ。

 まず灰原と白は、黒の家を出て帰路につく。帰宅したと青陽に思わせるためだ。しかし灰原と白は、途中で引き返して海高へ向かう。

 黒はテキトーに散歩でもする。青陽の注目を引きつけるためだ。黒が注意を引きつけ、灰原と白が確保する。素敵な連携プレイだ。


 灰原と白が家を出ていったあと、黒は昼食としてそうめんを食べた。それで二十分潰せた。

 それから、財布とスマホを持って散歩に出かけた。


 海沿いの道に出て、砂浜の海水浴客を横目でぼんやり眺めながら歩いた。


 途中でセブンイレブンに入り、グレープ味のファンタを購入した。そしてそれを、歩道から砂浜に下りるための広い階段に腰かけて飲んだ。同じように階段に座っている人々は、ほとんど十割カップルだった。


 ファンタを飲み干したタイミングで、灰原から電話がかかってきた。


「もしもし」


「黒。今から学校にきてもらえる?」


「はい」

 黒は階段から立ち上がった。

「それで、青陽くんはいましたか?」


「残念ながら、いなかった。でも、青陽くんはたしかに屋上を使って、黒を監視していたんだよ。それは確かめられた」


「何か証拠でも見つけたんですか?」


「まあ、来れば分かるよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る