くだらない映画だよ
お祭りのフィナーレは、打ち上げ花火だった。
白、灰原、水越、桃田の四人は、それを「おー」と歓声を上げながら鑑賞していた。ただひとり黒は、無感動な沈黙に身を沈めていた。
「黒。この前屋上から見た花火は、遠すぎてぜんぜん見えなかった」
白は言った。
「そして今日は、近すぎて首が疲れる。ほとんど真上を見上げる格好だ。これは絶対に適正な距離とは言えない」
「そうだね」
「黒、どうした? 元気ないけど」
「そんなことないよ」
帰り道、白がアイスを食べたいと言うので、五人はローソンに入った。五人ともアイスを購入して、店の外で食べた。
「そういえば、灰原先輩」
白が灰原に話しかける。
「『なないろの青』を見直してて気づいたんですけど――」
『なないろの青』。灰原が制作したスクールドキュメンタリー映画だ。白も編集として携わっている。
白は、かばんからタブレット端末を取り出すと、その映画を再生した。今ここでダメ出しをする気のようだ。
それにしても、タブレットに映画を保存して、見直しまでするとは、なかなか先輩思いだな……。
二人の関係を、黒は心から羨ましく思った。きっと白にとって灰原は、本当の友達なのだ。あたしとは違って……。
「なんだ灰原、ちゃんと完成させた映画あったのか」
桃田は言った。
「くだらない映画だよ、きっと。観るに値しない」
水越は肩をすくめる。
「批判は、じっさいに観た者のみに許される権利だ」
灰原は顔をしかめる。
「観てもいないのに、あれこれ言うのはやめてもらおうか」
「観た者のみって、じゃあ、今のところ映画を批判できるのは白江さんだけってことだね」
水越は言った。
「そうだ。あと、黒にもワンシーンだけ見てもらった。水越、君が登場するシーンだよ」
黒はそのシーンを思い出す。水越に廊下でインタビューするシーンだ。
「ああ」
水越はバツの悪そうな表情になった。
「今年の初め頃に撮影したシーンだろ? あのとき僕は、最悪なセンスの髪型をしていた。できたらその映像は消してもらいたいものだが」
会話が一段落すると、白が「もう一本アイス食べたいから買ってくる」と言って、ローソンに入った。
灰原も「僕も食べようかな」と言って白に続いた。
桃田は「俺トイレ」と言って、店内のトイレに消えた。
水越は「僕は外で待ってる」と言って、スマホを取り出していじり始めた。
黒はどうしようか考えて、けっきょく店内に入った。
とくに買いたいものがなかったので、黒は雑誌のラインナップをぼんやり眺めていた。そのとき、iPhoneが震えた。確認してみると、LINEが着信していた。
青陽からだった。
黒はもう驚かなかった。
メッセージには、お祭りでの黒の行動が事細かに記されていた。
青陽は、人ごみに紛れて、黒をこっそり観察していたのだ。
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