犯人は、お前だ
「犯人は、知り合いに姿を見られるわけにはいかなかったんだよ」
「どうして?」
「なぜなら犯人は、その日学校にいないはずの人物だったから」
「なるほど、ね」
「犯人は、学校で青陽くんのスマホを盗む必要があった。でも、海高に入るための門は、守衛さんが見張っている。部外者は当然だけど、遅刻した生徒も、守衛さんに止められる。そして学生証を提示させられて、名簿に名前を書かされる。その情報はのちのち、担任の先生に報告される。それは白が教えてくれたことだったよね?」
「そうだったね。確かに、電話でそんな話をした」
「犯人は、守衛さんに止められるわけにはいかなかった。自分が学校に来たことを担任の先生に知られたら、教室にいないのを不審がられてしまうからね」
「そうだね。校門を通ったのに教室にはいないっていうのは、おかしな話だもんね」
「だから犯人は、守衛さんに止められない、学校指定の登校時間に学校に入る必要があった。でも、青陽くんのスマホを盗むチャンスである体育の時間は三限目。それまでの時間、犯人は、先生や知り合いの生徒に見つからない場所に隠れている必要があったんだよ」
「それが屋上だった、と」
「そのとおり。屋上なら、誰かに見つかる恐れはない。でも、この日の天気予報は、文句なしの快晴だった。直射日光を遮るものがないと、死んじゃうよ」
じっさい、天気予報で言っていたとおり、これぞ日本の夏って感じの快晴だった。その後、にわか雨に見舞われるのは予想外だったが。
「犯人は三限目まで、テントの中で快適に過ごしていたわけか」
「そのとおり」
黒は頷く。
「それから、密室を作った後に犯人がテントを回収しなかったのは、急いでいたからじゃないと思う。これはポップアップテントだし、コツさえ掴めばすぐにたためる。犯人の私物なんだし、ある程度扱いには慣れていたと考えるのが自然。やろうと思えば回収できたはずだよ。それでも回収しなかったのには、きちんと理由がある。あたしはそう思う」
「……へえ」
「あの日は、雨が上がった後すぐに、今度は雷がゴロゴロと鳴り始めたよね?」
「……さあ、タイミングまでは、私はよく分からないけど」
「分からないはずないよ」
「え?」
「ねえ、白。ひとつお願いを聞いてもらえるかな」
黒は言った。
「白のスマホ、ちょっとあたしに貸してほしい」
「……どうして?」
「あたしの仮説を決定づけるために、必要なんだ」
「……」
白は無言でポケットからスマホを取り出すと、黒に差し出した。
黒はそれに手を伸ばした。
しかし、彼女がスマホに触れる寸前、白が手を引っ込めた。スマホを手渡すのを拒否したのだ。
「黒、もういいよ」
白はそう言うと、細くて長いため息をついた。
「もう十分だ。もうこれ以上話さなくていいよ」
「いや、だめだよ。最後まで言わせて」
黒は言った。まるで子供をあやすような、慈愛に満ちた声だった。
「あたし、必ずこのセリフを言うんだって、決めてたから」
「……分かった」
白は呆れたように、ふっとほほ笑んだ。
「ありがとう」
黒は頬を緩めた。それでいて瞳には、力強い光が灯っていた。
黒は白を指さした。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「犯人は、お前だ」
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