その死体は学校が隠している
白は感情をほとんど表に出さない。よく分からないタイミングでうなずく。自分が知りたいことには食いつくけど、それ以外に対しては徹底して無関心を貫く。退屈そうにあくびさえする。にもかかわらず、こっちに「もっと喋りたい」と思わせる何かがある。そういう意味では、白は天才的な聞き上手だ。
「その遺書と、鍵。いま持ってる?」
黒は、スクールバッグからそれらを取り出し、テーブルに並べた。
白は、まず封筒から遺書を取り出して、目を通した。それから屋上の鍵を手に取って、いろんな角度から眺めた。
「黒はさ、青陽くんに恨まれること、なんかしたの?」
それ、やっぱり聞いてくるよなあ……。
黒は、それについては極力喋りたくなかった。白も言いたくないことは言わなくていいと、さっき言ってくれた。
でも黒は話してしまうことにした。
しかし黒が話すまでもなかった。
「黒は青陽くんに告白された。だけど黒はそれを断ってしまった。違う?」
黒は目をぱちくりさせた。
「え、え? なんで分かるの? 白、あんたってエスパータイプポケモンかなんか?」
「ニャスパーに顔が似てるって言われたことはある」
「たしかに似てるかも」
「告白されて、黒は断った。そういうことでオケイ?」
「……オケイ」
「その時期は、だいたい一ヶ月半前。違う?」
「そのとおりです、ニャスパーさん。なんで分かったの? 青陽くんから聞いた?」
「その頃は、私はまだ学校に通っていた。私は、黒や青陽くんとクラス一緒なんだから、雰囲気で分かるよ。それくらいさ」
「白、あんたすごいよ……。隠しててごめんね。白はお見通しだったわけだけど」
「べつに隠してたわけじゃないでしょ。言わなかっただけだ」
黒は「ありがと」と言った。
やっぱり白は「なんで感謝されたんだろ?」って感じに首をかしげた。
「んで、こればかりは、私には分からないんだけどさ。どうして黒は、青陽くんの告白を断ったの? 黒は青陽くんのことが好きだった。私はそう思っていたけど、それは大間違い?」
「間違いじゃない、と思う。あたしは彼のことを好きだった、と思う。あたしのほうから告白しようと思ったことも、なかったわけじゃない」
「なんだか歯切れが悪いね。つまり好きだった。そういうことでオケイ?」
「……オケイ」
じゃあ、なぜ断ったのか? そう疑問に思うのはとうぜんだ。でも、その理由は掘り下げられたくない。
じっさいのところ、理由は単純なのだ。綾香の奴が、青陽に恋心を抱いているからだ。だから黒が青陽とくっつくわけにはいかないのだ。
綾香を敵に回したら、黒はもう学校生活を送れなくなる。綾香の暴君ぶりは、はっきり言って異常だ。
綾香のターゲットになる条件はシンプルだ。
まず、綾香のお気に入りの男子と仲良くする者。それから、普通じゃない者。その二つだ。
白はその二つの条件を余裕で満たしていた。白と青陽は控えめに言って仲良しだった。加えて白は、誰の目から見ても普通とは言い難い娘だった。自由な言動で周囲を振り回し、時には笑わせ、時には怒らせた。
一年生の時の大半は、綾香は大した脅威ではなかった。むしろカリスマ性を感じさせるような存在で、自然と周りに人が集まった。
でも冬の寒さと連動するように、だんだんと彼女の血は冷えていった。暴力と暴言で人を支配するようになった。二年に進級した後は、狙い定めたように、白を執拗に攻撃するようになった。
白は耐え続けた。そして限界がきた――。
そんな白に向かって「綾香に恨まれるのが怖いから、青陽くんの告白を断った」なんて、言えるはずない。
「ま、青陽くんは口下手だしね。天才的な口下手」
白は言った。
「余計なことでも言って、黒を怒らせちゃったんでしょ。違う?」
「あ、ああ、そうそう。そんなところ。あはは……」
「青陽くんらしいな。もし私が青陽くんだったら、ぜったいに黒を落としてみせたのに」
「え……?」
「勘違いしないでね。べつに黒のことが好きとかそういうんじゃないから」
「なんか傷つくなあ」
「青陽くんはほんとダメダメだな。黒ひとり落とせないようじゃ、人として終わってる」
「さりげなくディスるんじゃないよ」
「気のせいでしょ」
白は大きなあくびをした。
「話が脱線したね。時を戻そう」
黒はうなずいて、話を再開した。
「あたしは青陽くんの告白を断った。で、それを恨んで、青陽くんは、今回の悪戯を決行した。そういう話なわけだよ、今回の一件は」
「どうして悪戯だって分かるの? さっき黒が言ったように、本校舎裏には、血みたいなものがあったんだよね?」
「あくまで、血みたいなものだよ。みたいなもの。美術部が間違って絵具をこぼしちゃったとか、そんなところでしょ」
「ねえ黒」
白は少しだけテーブルに身を乗り出した。
「青陽くんは本当に自殺した。そして、その死体は学校が隠している。という可能性は?」
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