やっぱりこれは、黒が持ってるべきだ

 午後七時ごろ、青陽の家をおいとました。


 青陽は、真犯人を突き止めるために、黒たちに協力すると約束してくれた。彼は真犯人に対してひどく腹を立てていた。考えてみれば、青陽こそが、今回の事件の一番の被害者なのかもしれない。


 黒、白、灰原の三人は、帰り道、セブンイレブンに寄った。恒例のアイスタイムだ。


 駐車場の隅っこで、購入したアイスの袋を開ける。

 それから、黒は、それとなくiPhoneをチェックしてみる。LINEが着信していた。2分前に着信している。青陽を騙る真犯人からのメッセージだった。



 早く俺を捕まえてごらん。


 

 それだけが記されてあった。


 黒はため息をついて、iPhoneをポケットに仕舞った。


「ほおしたお?」

 アイスを口に入れた状態で、灰原が尋ねてきた。


「どうしたの、って言ってる」

 白が通訳した。


「いや、分かるよ」と、黒は白に言った。それから「なんでもないです」と灰原に答えた。


「あ、そうだ」


 何かを思い出した様子で、灰原はリュックをごそごそと漁り始めた。そして、透明なケースに入ったDVDを取り出すと、黒に手渡した。

 ディスクにはマジックで「なないろの青 2019年4月~2020年3月」と記されている。例のスクールドキュメンタリー映画『なないろの青』が収録されているようだ。


「黒、この前、観たいって言ってたでしょ?」

 灰原は急にいきいきし始める。


「……社交辞令だったんですけど」


 というか、よくよく考えてみると、社交辞令でもそんなことを言った覚えないぞ……。


 灰原はしゅんとしてしまった。


「冗談です」

 黒は言った。冗談ではないんだけど……。

「あとで、ちゃんと観ます。そして感想を言います」


「よろ!」

 灰原は活気を取り戻した。

「この映画、悪い評判は今のところないから安心してね」


「まだ白しか観てませんもんね」


「そのとおり!」

 灰原は今日いちばんの笑顔を見せた。

「あ、そうそう、あとこれも」


 灰原はリュックから屋上の鍵を取り出して、黒に差し出した。黒がドキュメンタリー映画撮影のモチベーションを失っている時、灰原に貸し出していたものだ。黒としては、完全に差し上げたつもりだったのだが。


「やっぱりこれは、黒が持ってるべきだ。黒が見つけたものなんだし」


「分かりました」


 黒は素直に、鍵を受け取った。

 ずっと隠し持っているわけにはいかないだろうけど、夏休み中くらいは、屋上を楽しんでもバチは当たらないだろう。


 黒は鍵を夜空にかざして、ふっと笑みをこぼした。

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