犯人、分かっちゃったかも

◇8月10日

 

 黒は朝七時に目覚めた。いつも通りの時間だ。

 しかし彼女はいつまでもベッドから出ず、ぼんやりと考え事をしていた。一連の騒動についてだ。


 果たして犯人はいつまで、あたしに嫌がらせを続けるのだろう。

 犯人は誰なんだ? 何を恨んでいるんだ?


 らちが明かない。


 黒はようやくベッドから出た。そして今日はどう過ごそうか考えた。予定は特にない。


 けっきょく、スマホのゲームをやり始めると止まらなくなってしまい、昼過ぎまで時間を潰してしまった。


 お昼ご飯にチャーハンを食べて、その後は自室でパソコンを開き、Amazonプライムビデオで映画を見た。

 観終わって少しすると、黒は「そういえば」と思った。


「昨日、灰原先輩からDVDを借りていたな……」


 スクールドキュメンタリー映画『なないろの青』が収められたDVDを、昨日借りたのだった。正確に言えば、無理やり押し付けられたのだ。


 しょうじき言って観るのはだるいのだが、感想を言うと約束してしまった手前、黒は不承不承それを鑑賞することにした。


 部活の活動を中心に撮影されたその映画は、なかなかどうして、よくできていた。海高の生徒の日常を映した内容なのに、不思議と退屈しない。

 海高に生きる一人ひとりに違った色があって、それらはどれも尊い輝きを放っている。誰一人として、無色透明な存在なんていないんだ。そんな作者の思いが、画面を通して伝わってくるようだった。


 ドキュメンタリーって、もっと感情のない記録物だと思っていたけど、考えを改めたほうがよさそうだと黒は思った。


 この映画を作った灰原と白には、間違いなく才能がある。二人に拍手を送りたい。


 黒は夢中で、映画を観続けた。


 映画には、それぞれの部活の独自の風習や雑学など、興味を引く要素がたくさん詰めこまれている。


「お」


 映画は、パソコン部を取材するパートに入った。部長の桃田が、カメラに向かって部活での活動を語っている。


『――そんなわけで俺たちは、高度情報化社会に適応するため、日々厳しい訓練を行っている。ハッキリ言ってレベルは高い。遊び半分の気持ちなら、入部はごめんこうむるね。ただし女の子は素人でも歓迎』


 嘘っぱちじゃないか。じっさいの彼らは、ただ集まってゲームをしているだけだ。本当のことを言っているのは「女の子歓迎」の部分だけだ。


「おいおい……。パソコン部のくせに、ITリテラシーがなってないぞ」


 黒はそう呟いて苦笑した。

 というのも、アジト内の設備を紹介するシーンで、ルーターに貼られたシールをカメラがバッチリ捉えてしまっているからだ。そのシールには、Wi-Fiのネットワーク名とパスワードが記されている。カメラに映すべきではない情報である。


「しっかりしてくれ、桃田部長」


 しかし意外なことも知れた。桃田は実は時間に厳しい人間で、必ず放課後10分以内にはアジトの鍵を開け、そしてパソコン類の電源を立ち上げるのだという。風邪でもひいて学校を休まない限り、必ず桃田が職員室から鍵を受け取り、アジトの鍵を開ける。


 そういうところは部長らしいなと、黒は笑みをこぼした。


 パソコン部の次は、生徒会のパートが始まった。このパートは、すでに以前チラッと見ている。黒の持つ鍵が複製されたスペアキーである可能性を説明するために、灰原が見せてくれたのだった。


 そして、そのシーンがやってきた。


「……」


 黒は、なにやら頭に引っかかるものを感じた。


「……まさか」


 黒は映像を停止させた。それから、パソコンのDVDドライブからディスクを取り出すと、その表面をまじまじと眺めた。


「犯人、分かっちゃったかも……」

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