第45話 生還、そして真相へ。

 それから、地上へ出た一同。

 すっかり日が暮れて夜が近づいていた。


 待機していた冒険者たちに、ことの顛末を報告。

 死体かつぎを撃破したことを伝える。


 最初は半信半疑だった冒険者たちだが、ダンジョンに潜って魔物の亡骸を確認すると、すぐさま飛び出してきて大騒ぎになった。


 まず話題になったのは、誰が敵の親玉を仕留めたかである。


「はっはっは! それは吾輩!

 ヒリムヒル・アップルピーである!」


 声高らかに宣言するヒリムヒル。

 彼に全ての功績を譲ることで青年は同意している。


 冒険者たちは信じようとしなかったが、青年も、少女も、不眠症も、鎌鼬も。

 一同は揃ってヒリムヒルの手柄だと証言する。


 やがて面倒になった冒険者たちは、ヒリムヒルが死体かつぎの討伐者だと認めることにした。

 彼らにとって誰が英雄なのかどうでもいい。

 もっと別のことを気にかけている。


「それで、ヒリムヒルさん。

 今回の討伐で得られた報酬。

 俺たちにも分け前を下さるんですか?」


 冒険者たちは両手を揉みながらヒリムヒルに尋ねる。


 彼らにとって一番の関心ごとは、英雄となったヒリムヒルがどれだけの器の持ち主なのかと言うこと。

 少しでもおこぼれにあずかろうと、大勢の冒険者が彼の元へと集う。


「もちろん、吾輩は英雄であるからして。

 諸君らには相応の報酬を支払うと約束しよう!

 とりあえず街の酒場へ行って浴びるほど飲むがいい!

 代金は全て吾輩がもつ!」

「「「うおおおおおおおおお!」」」


 沸き立つ冒険者たち。

 ヒリムヒルは青年を見て目配せをする。


 彼は事前に打ち合わせたとおりに動いている。

 意外と律儀な人なのかもしれない。


「んで、俺たちはどうする?」


 不眠症が青年に尋ねる。


「とりあえずハンスさんを拘束しましょう。

 ついでにザリヅェさんの身柄も確保しないと」

「それは俺と鎌鼬に任せてくれ」

「お願いします。

 彼は僕の小屋で拘束していますので……。

 僕は彼女と教会へ向かいます」

「ああ……気を付けろよ」

「はい」


 不眠症と鎌鼬は気を失ったハンスを担架に乗せ、冒険者ギルドへと向かう。

 ザリヅェもおそらくそこにいるはずだ。


 今回の事件の顛末を知るのはその二人。

 事件の協力者として隣国へ引き渡せば、戦争は免れるかもしれない。


「じゃぁ、僕たちも行こうか」

「はい」


 青年は影武者の遺体を背負い、少女と共に教会へと向かう。


「あの……葬儀屋さん」

「なに?」


 少女が話しかけてきた。


「アンデッド属性付与のペンダントって確か……

 すごく貴重なアイテムだって言ってましたよね?」

「ヒリムヒルさんは、ある人から盗んだって言ってたね」


 ヒリムヒルはアンデッド属性付与のペンダントを盗んで手に入れたと認めた。


 アンデッド属性付与効果のあるこのアイテムを鑑定魔法で調べたところ、闇属性の品だと判明した。

 闇属性のアイテムを作り出せるのは魔族だけ。


 魔族とは人間に敵対する種族全てを指す。


「じゃぁ……このアイテムの元の所持者って……」

「間違いなく、魔族と通じているね」

「でっ、でも……」

「これが本当だったら、とんでもないことだよ」


 青年は目の前の建物をまっすぐに見据える。

 そこには教会があった。


「待っていたぞ、葬儀屋」


 神父が扉の前に立っている。


「本当に生きて帰るとはな。

 正直、今回ばかりは危ういかと……」

「前置きはいいです。

 中へ入れてもらえますか?」


 有無を言わさぬ気迫。

 青年の言葉を受けて、神父はごくりとつばを飲み込む。


「うっ……うむ。

 分かった、入れ。

 しかし……いったい何があった?

 そんな怖い顔をして――」

「わけならすぐに分かります。

 僕たちを中へ入れて下さい」


 神父が扉を開く。

 誰もいない礼拝堂。

 月明かりが窓から差し込んでいる。


 その奥の祭壇の前。

 置かれている物。


 青年はその前に立って呼びかけた。


「起きて下さい、目を覚ましているのでしょう?」

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