第24話 生存者
慎重に進んでいくと、人の声が次第に大きく聞こえるようになった。
どうやら本当に生きた人間のようである。
「この向こうから聞こえてくるな」
行き止まりの壁を触りながら鎌鼬が言う。
「でも、行き止まりじゃないですかぁ。
どうするんですか?」
「黙って見てろ」
鎌鼬は背負っていたつるはしで壁を叩き、小さな穴をいくつも作っていく。
「よし、できたぞ」
鎌鼬が壁に穴を開けると不眠症がいくつか小さな筒を取り出して、その穴の中にねじ込んでいく。
「みんな下がってろよー。
ちょっと危ないぜ」
火打石を取り出して火花を散らす不眠症。
筒の先端から出ている長い紐に火をつけた。
シュウウウウウウ……
長い紐は火花を散らしながら燃えていく。
不眠症は一同を岩陰へと下がらせた。
「あの……何をするつもりなんですか?」
「まぁ、見てろって」
葬儀屋が尋ねると、不眠症はにひひと白い歯を見せて笑う。
しばらくして――
どがああああああああああああん!
大きな爆発が起こった。
一同が壁の場所まで戻ると、そこには大きな穴が開いていたのだ。
「おお……こいつはすげぇな。
お前ら、一体どんな技を使ったんだ?」
「へっへっへ、ハンスの旦那。
これは俺たちが編み出した新技術でしてね。
壁のあちこちに穴を開けて、この爆薬を仕込むんですよ。
そうしたらなんと、簡単に道が開けるんです」
手に持った筒を振りながら不眠症が言う。
「ああ……あの秘密の場所もこれで」
「そうだぜ、葬儀屋。
俺がいなかったら、こんなことできないけどな。
俺がいたからできる技だ」
「調子に乗るな、ボケ」
鎌鼬が言うと、不眠症は目を吊り上げて睨み返す。
あの秘密の安全地帯も同じようにして穴を開けたらしい。
仲が悪いように見えるが、こういった連携が取れるのだから、二人は厚い信頼関係で結ばれているに違いない。
「音が聞こえた⁉ 爆発の音⁉
これは救いか⁉ それとも絶望か⁉
ああ! 我が運命やいかに!」
開かれた穴の向こうから人の声がハッキリと聞こえて来た。
「あれ……この声って確か……」
「吟遊詩人さんじゃないですか?」
少女はその声の主を覚えていたようだ。
彼女の言う通り、この声は昨日すれ違った吟遊詩人のものだ。
壁がなくなったことでようやく声の正体に気づけた。
「大丈夫で――もごっ!」
「静かに! 大きな声を出さないで」
呼びかけようとした少女の口を葬儀屋が抑えて黙らせる。
ダンジョンの中で大声を出すのは非常に危険だ。
モンスターを呼び寄せる可能性もある。
生き残った人間をあえて生かしておき、囮に使うモンスターも存在する。
たとえ吟遊詩人がアンデッド化していなかったとしても、不用意に近寄るべきではない。
「僕が行って安全を確かめてきます。
皆さんはここで待っていてください」
「もし奴が囮だったらどうする?
こんなところで敵の群れに襲われたら、
死体を回収するどころじゃねぇぞ」
ハンスが尋ねる。
「この子に結界魔法を使わせます。
この穴を魔物が通れないようにすれば、
引き返して来ても安全です」
「放っておくって手もあるんだぞ」
葬儀屋は首を横に振った。
「彼を救出できれば貴重な情報が手に入るかもしれません。
リスクを冒してでも助ける価値はありますよ」
「その情報のために命を落としたら元も子もないんだぞ」
「はい、分かっています」
「はぁ……決意は固いみたいだな。
分かった、行ってこい」
ハンスがそう言うと、葬儀屋は少女の口元から手を放す。
「と言うことで、結界魔法をお願い。
使えるよね?」
「使えますけど、ちょっと時間がかかります。
あの……」
「僕なら大丈夫。必ず戻るよ」
「約束ですよ」
青年は一人、穴をくぐって声のする方へと向かう。
通路を抜けると開けた場所に出た。
天井が高く、部屋の幅もやけに広い。
不穏なものを感じながら辺りを見渡すと、部屋の隅でうずくまっている人を見つけた。
あれが声の主だろうか?
それにしてはやけに大人しい。
それの正体を確かめようと忍び足で近づいて行く。
「あっ……あの」
「おお! 待っていたぞぉ!
救助隊か! 助かった!」
声をかけようとしたら、背後から大声。
振り返るとあの吟遊詩人がいた。
「助かった! 地獄に天使とはまさにこのことだ!」
「しっ! 静かにしてください!
モンスターが近くにいるかもしれない!」
「モンスター? そんなもんここにはいないぞ!
この私に恐れをなして逃げて行ったのだぁ!」
「くだらない冗談は後にしてください!
何か嫌な予感が……」
がらっ。
物音が聞こえた。
先ほど何かがいた方を見やると、うずくまっていた者が立ち上がる様子が目に入る。
人が歩くよりも、ゆっくりと、不自然に、ふらふらと横に身体を揺らしながら、一歩、一歩、こちらへと近づいて来る。
あれは――アンデッドだ!
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