第16話 集められた仲間

 それからすぐに青年は動いた。


 死体かつぎが出現したとなれば、非戦闘系ジョブの人たちもダンジョンから引き上げてきているはず。

 案の定、宿場で荷物をまとめていた不眠症と鎌鼬を見つけることができた。


 二人は最初、難色を示していたが、青年が根気強く説得したことで協力に同意。

 決め手となったのはやはり――


「王太子のご遺体ねぇ……

 いったいいくらになることやら」

「きっと、すごく儲かる」

「成功したら、何を買おうかなぁ。

 カバンも新調したいし、服も買いたいし、

 ああ……新しいお布団もいいなぁ。

 お腹いっぱい美味しいものも食べたい。

 鎌鼬、お前は何を買う?」

「女だな、あと……女」

「やっぱそれだよなぁ。あと酒」


 ブツブツと二人で皮算用をする二人。


 王太子の遺体ともなれば成功報酬もバカにならない。

 隣国から大金が支払われるであろう。


 青年からそう聞いた二人は、途端に目の色を変えた。


 やはりダンジョンの中で商売をする者にとって、一番の原動力となるのは金。

 大金が手に入れば商売もやりやすくなるし、欲しい物も手に入る。


 誰もが裕福な暮らしを夢見ているのだ。


「ありがとうございます。

 お二人が協力してくれるのなら、百人力です」

「いいってことよ、葬儀屋。

 それに今回はあのお嬢さんがいるからな。

 マジで勝てるぜ、この勝負」


 そう言って少し離れた場所にいる少女に目を向ける不眠症。


 一同は冒険者ギルドに集合している。

 死体かつぎの出現を聞きつけた他の冒険者たちも集まって来ていた。


 もし死体かつぎが地上へ侵攻したら、ここにいる冒険者たちで迎え撃たなければならない。

 いくさのような物々しい雰囲気が漂っている。


「全能なる我が神よ。

 邪悪な存在より我を守り給え。

 次元を隔てる幾重もの城壁により、

 あらゆる悪意を隔絶せよ。

 ホーリーウォール!」


 少女が詠唱を終えて杖を突きだすと、その前にはいくつもの光の壁が現れる。

 本番に向けてウォーミングアップをしているらしい。


「なぁ……あのお嬢さん、何者なんだ?」

「さぁ、僕もさっぱり。知り合ったばかりで」

「あれだけの腕があれば、冒険者なんかにならないで、

 中央の教会に勤められると思うんだけどなぁ」

「巡業に来たって言ってましたから、

 修行中なんじゃないですか?」

「あれ……修行する必要あるのか?」


 不眠症は首をかしげる。


 確かに、彼女ほどの実力があるのであれば、もっといい暮らしができるはずだ。

 少なくとも冒険者になるようなレベルの存在ではない。


 下手をしたら教皇に仕えることだって――


「準備完了です!

 いつでも出発できます!」


 青年の元へ戻って来た少女は、自信満々のどや顔で言う。


「あっ、うん……ありがとう。

 でも出発は明日になるよ」

「え? どうしてすぐに行かないんですか⁉」

「僕は昨日からずっと寝てないからね。

 ちゃんと休養をとらないと。

 そういう君だって、まったく休んでないじゃないか。

 少しくらい眠らないと身体がもたないよ」

「それもそうですね。

 あっ、このマクラ使ってもいいですか?」

「別にいいけど……」


 少女は冒険者たちが使うためのマクラを見つけると、それに頭を乗せて横になった。

 遠慮というモノを知らないらしい。


「このお嬢さん。案外、冒険者に向いてるかもな」


 不眠症が苦笑いして言った。


 休息をとるための道具は揃っている。

 他のメンバーも横になって休み始めた。


「んじゃ、俺たちも眠るとするか。

 朝になったら起こしてくれよ、葬儀屋!」

「俺もねるぅ」


 不眠症は横になって目を瞑り、しばらくしてぐっすり。

 名ばかりの二つ名である。


 その隣で鎌鼬が大きめの枕を抱きしめて眠りについた。


「二人も人のこと言えないよ」

「お前もゆっくりと休めよ、葬儀屋」


 ポンと青年の肩に手を乗せるギルド長。


「はい、そうですね」

「んじゃ、俺も寝るからなー!」


 ギルド長も横になった。

 そしてすぐに寝息を立てる。

 彼も彼で眠るのが早い。


 青年はやれやれと肩をすくめて一人冒険者ギルドを後にする青年。

 空を見上げると、星がひとつ、またひとつとまたたき始めていた。

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