第42話 どちらがモンスターか分からない
『ぎぎょおおおおおおおおおおおおおお!』
幼体たちが二人に向かって突撃する。
青年は近くに落ちていた剣を拾って迎え撃つ。
死体かつぎの身体は幼体と言えど、非常に固い。
脳天に剣を突きさしても即死せず、多少怯むだけである。
人間の腕を引きちぎるようにはいかなかった。
何度も同じ場所を突き刺すことで、ようやく一体目にとどめを刺したが、また新手が襲い掛かってくる。
おまけに背中のアンデッドが魔法で攻撃したり、触手のようなものを伸ばしてきたりと、厄介この上ない。
「ホーリーウォール!」
少女は魔法で防壁を作り、敵の攻撃を防いでくれている。
多数の敵に囲まれながらも戦えているのは彼女のお陰だ。
死体かつぎたちは防壁の間をすり抜け、あるいは乗り越えて二人に襲い掛かる。
その敵を一体ずつ撃退しているものの、敵の数は全く減らない。
倒しても、倒してもきりがない。
ぱきぃん!
ついに剣が壊れてしまった。
超人的な青年の力と死体かつぎの強固な装甲。
どこにでもある普通の武器が耐えられるはずもない。
武器を失った青年は石で反撃を試みるが、短剣とは違い敵の弱点をピンポイントで攻撃できない。
厚い装甲に阻まれ、脆くも砕け散るばかりである。
「はわわ、どうしましょう」
「まいったね」
防壁を抜けて二人に迫る死体かつぎの幼体。
このままでは数に押されて負けてしまう。
石で殴りつければそれなりにダメージは入るし、敵も怯む様子を見せる。
しかし……それでもこの数を全て処理するのは困難だ。
後ろには母体も控えている。
母体には魔法の防壁を破壊する力が備わっている。
それをしないのは、幼体に襲わせて二人の体力を削ってから決戦に臨むつもりだと思われる。
たとえ災害級のモンスターであっても、自らの身を危険にさらしたくないのだろう。
逆を言えば、二人の存在は敵の首魁に脅威として認識されていることになる。
死体かつぎの母体は恐れをなしているのだ。
どおおおおおおおおん!
あたりに爆発音が轟き、閃光がさく裂。
死体かつぎの幼体は突然の爆発に驚き戸惑い、パニック状態に。
さらに続けて複数の爆発が起こり、敵が使役するアンデッドが吹き飛ばされて肉片が舞う。
続けて炎が放出され、ひしめき合う死体かつぎの幼体たちを飲み込んでいく。
爆発に炎。
これは間違いなく……!
「みんな! 無事だったんですね?!」
青年は仲間たちの姿を探す。
すると天井付近に空いた小さな穴から、不眠症と鎌鼬とヒリムヒルの三人が顔を出しているのが見えた。
「わりぃな葬儀屋! 遅くなった!」
「我々が来たからにはもう大丈夫だ!
思う存分に戦うがよい!」
申し訳なさそうにする不眠症と、どや顔で偉そうな態度のヒリムヒル。
二人は爆弾と炎の魔法で敵を攻撃している。
どうやら三人は無事に深層から脱出できたらしい。
「葬儀屋! 受け取れ!」
鎌鼬は自分の武器を青年に向かって放り投げる。
両手で受け取ると、いつも彼が大切にしている短剣だと分かった。
「鎌鼬さん⁉ これ、いいんですか⁉」
「お前になら託せる! 敵を倒せ!」
決して他人に自分の道具を触らせない鎌鼬。
そんな彼が、もっとも大切にしている武器を託してくれた。
その事実が青年を奮い立たせる。
「ありがとう……みんな!」
短剣を鞘から引き抜く。
大きく湾曲した刀身がギラリと光を放つ。
触れるものを一切合切、バラバラにしてしまう剣呑な形。
この武器ならば死体かつぎを葬れるだろう。
『ぎぎょおおおおおおおおおおおおおお!』
敵の脳天に短剣を突きさすと、悲鳴を上げて動かなくなった。
なまくらと比べたら威力が段違い。
青年は防壁を乗り越えて来た幼体全てを撃破。
もはや身を守るための壁は不要である。
「魔法を解除して、敵の親玉を倒してくるよ」
「分かりました」
青年の言葉に従い、少女は魔法を解除する。
防壁が消失した途端、死体かつぎの幼体は恐れおののき距離を置いた。
「ふふ……これじゃぁ、どちらがモンスターか分からないな」
炎上する広間。
二人を取り囲む蟲の化け物。
青年はその中心で不気味に口端を釣り上げる。
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