第26話 レアアイテム
いまだに泣き止まない吟遊詩人を連れて、下の階層へと降りて行く一同。
幸いにも死体かつぎの群れと出くわすことはなかった。
しばらく進んで周囲を索敵してモンスターがいないことを確かめた後、部屋の入口に結界をはって安全を確保する。
「そろそろ、落ち着きましたか?」
「頼むぅ……お家に帰してぇ」
泣き止みはしたものの、膝を抱えたままガタガタ震える吟遊詩人。
冷静な判断能力を取り戻せたとは言いがたい。
葬儀屋はいくつか質問するものの、まともな答えが返ってくることはなかった。
「なぁ……マジでコイツどうする?
連れて行っても足手まといにしかならねぇぞ」
不眠症が葬儀屋の耳元で囁くように言う。
「もう少し様子を見ましょう。
情報を引き出せないのであれば、連れて行く意味もない。
ここに置いて行くしかないですね」
「へぇ、さすがだな」
不眠症が感心したように言うと、青年は眉をひそめる。
「何がですか?」
「こいつを助けるつもりなんて、ハナッからなかったんだろ。
利用するだけ利用して使い捨てるつもりだったわけだ。
百戦錬磨のつわものは考えることが違うね」
嫌味ともとれる言葉だが、葬儀屋は無視した。
こんなことで心を乱されてはならない。
「なぁ……そろそろ落ち着けって。
俺たちはこれから更に深く潜るんだ。
ぎゃぁぎゃぁ騒がれたら迷惑なんだよ。
いい加減にしないとぶん殴るぞ」
ハンスが強めに迫る。
酷かもしれないが、彼に利用価値がなければここに置いて行くしかない。
一緒に連れて行くにしても足手まといにしかならないだろうし、わざわざ地上へ送り届けてやる義理もない。
せめてギルバードの所在を知っていれば――
「きっ……君たちは私を助けに来たんじゃないのか?!
生き残ったのは私一人だけなんだぞ!」
「俺たちはギルバードってやつの死体を探してんだよ。
そいつを見つけるまでは帰れねぇんだ。
帰りたかったら一人で帰れ」
「なんだと⁉ ギルバード様が亡くなられた⁉
そんなばかな……嘘だあああああ!」
突然、大声を上げる吟遊詩人。
まるでこの世の終わりのような顔をしている。
「なっ……なんだよ急に……どうした?」
戸惑いながらハンスが尋ねる。
「吾輩が今までどれほど彼に尽くしたか分かるか?!
何度も何度も王城へと足を運び、謁見を申し入れ、
それはもう何度も頭をペコペコ下げに、下げ。
あともう少しで宮廷使いになれたはずだった!
なのに……なのに!
今までの努力が全てパァだ!」
ハンスはふーっとため息をついて、一同の顔を見渡す。
ギルバードの死を知っても、嘆くのは自分の出世のことばかり。
とても褒められた人柄ではない。
「で……こいつ、どうするよ?」
ハンスが一同に尋ねる。
「俺はそいつを連れて行くのは反対だ。
ただの吟遊詩人がなんで一人だけ生き残れた?
連れは全員死んじまったんだろ?
なんか怪しいんだよなぁ」
「そっ……それは……」
不眠症が疑いながら視線を向けると、目を泳がせる吟遊詩人。
彼は何か隠し事をしているようだ。
「おい、黙ってないで答えろよ」
「わっ……分かった、話すよ。
私はこれを持っていたから襲われなかったんだ」
彼はそう言って懐からペンダントを取り出した。
怪しく光る宝石が埋め込まれたそれは、明らかにただの装飾具でないと分かる。
「これは……アンデッド属性付与のアイテムだな。
しかもかなり貴重な奴だぞ」
ハンスがペンダントを覗き込みながら言う。
ハンスは鑑定魔法すら必要とせず、一目見てそのアイテムの正体を見抜いてしまった。知識の豊富さに驚かされる。
アンデッドの属性付与のアイテムなんて、青年は存在すら知らなかった。
不眠症もそれは同じだったのか、吟遊詩人が持つペンダントを興味深く眺めながら「なんだそりゃ」とつぶやいていた。
彼がアンデッドに襲われなかったのは、そのアイテムのおかげだったらしい。
「なんでこんな貴重なものを持っている?
訳があるなら話してもらおうか?」
「それは……その……」
「どうした? 答えられねぇのか?」
ハンスは疑いの目を向ける。
確かに一介の吟遊詩人でしかない彼が、存在すらあまり知られていないようなレアアイテムを持っているのは不可解である。
「おっ……お借りしたのだ」
「へぇ、借りたって? 誰から?」
「ギルバードさまから……」
「は? 王太子さまからだって?
本当なのかそれは?」
吟遊詩人は目を泳がせている。
どうやらこのアイテムの出所について知られると都合が悪いらしい。
「もしかしてよぉ……盗んだとかじゃねぇだろうな?」
「いやっ、その……盗んだというよりは……。
一時的にお借りしたというか……なんというか」
「やっぱり盗んでるんじゃねーか!」
「失敬な! 後でちゃんと返すつもりだ!
一時的にお借りしただけと言っているだろう!」
貴重なアイテムを王宮から無断で持ち出すとは、なんとあさましい。
一同は一斉に吟遊詩人の男へ疑いの目を向ける。
「てめぇはそのアイテムの効果を知ってたのか?」
「うっ……うむ。
鑑定士に効果の判定を依頼したところ、
このペンダントにはアンデッド除けの効果があると。
ダンジョンに潜る時に役に立つかと思って持ってきたのだ」
「そのアイテムがあれば王太子の暗殺も簡単だよな」
「……え?」
ハンスの言葉に吟遊詩人の男は表情を凍り付かせる。
「もしかしたらコイツは暗殺者かもしれねぇ。
ギルバードを殺すためにここへおびき出したんだ」
「なっ⁉ ふざけるなっ!」
「みんなはどう思う?
黒か、それとも白か。
今すぐここで結論を出そう。
場合によっちゃぁ――」
ハンスはゆっくりと短剣を左手で鞘から引き抜いて、その切っ先を吟遊詩人へと向ける。
「ここで死んでもらわなきゃならねぇ」
冷たいまなざしを吟遊詩人へ向け、ハンスが言った。
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