十一話
夜も遅い時間にもかかわらず、電車にはそれなりの人が乗っていた。立っている人の姿はなかったが、椅子はほぼ埋まっている。室長が三人掛けの椅子が空いているのを見つけると、そちらに向かって歩き出した。私もその後に続く。
電車の進行方向とは逆方向であったため、加速に伴う抵抗力を感じた。
「多分さ」
と、室長が徐に口を開く。
「私が思うに、あの話の事が今の石川に影響してるんだと思う。ていうか、普通に考えればそうだよ」
椅子に腰を落ち着けて少し経ってからの事だった。
「別に、話すのは構わないです」
呟くように言いながら、一呼吸置いた。気持ちを落ち着かせながら、伝える言葉を整理する。
「室長の言うように、今となってはネタというか・・・、笑い話で済ませられるかなとも思ってます。でも、果たしてそれを伝えることに意味があるのでしょうか? 彼に、話したところで。あたしには特別何も変化は起こりません。それは確かなことです」
室長の方に首を少し傾け、私は一気に喋りきった。
すると、室長は私の方は見ずに、真っ直ぐに前を向いて応えた。
「変化は起こるよ。石川の方ではなく、あの子の方に、ね」
あの子・・・ああ、彼のことか。
「さっきタケシは石川にそれを言いたかったんだよ」
多分ね。と言ってから彼女は続ける。
「ま、アイツは石川の過去を知らないけどさ。でも、何となく感じるものがあったんじゃないの?アイツ、意外と鋭いし」
健史先生もさっき教室で私にその事を伝えたかった?
「少しでも石川の中で思うところがあるなら、あの子に全部言っちゃっても良いんじゃない?思い立ったら喋っちゃった方が楽だよー、お互い」
いつだったか。以前、彼と口喧嘩したことがあったっけ。確か、彼の車で千葉の大型アウトレットに行った時のことだ。初めて行く場所とあって、私は年柄にもなくはしゃいでいた。そこは外から見ると大きな赤い壁で覆われていた。赤い壁を上に突き抜けて、大きな観覧車が回っている。赤い壁は途中から青い壁に変わっていた。
壁はどこまでも続いているかのようだった。どちらの壁にも白色で大きな数字が書かれている。恐らくアウトレットの区画を区別し、識別するものだろう。
私と彼は、赤い壁の入り口から入場すると、すぐに大きな恐竜の模型があることに気がついた。二階のフロアまで届くほどの大きさだった。恐竜の足元には、ドネル・ケバブを売っている小さな屋台。黄色いワゴンがそのお店だった。
そこから少し離れたところに、小さな子供が喜びそうなアトラクション。ちょうど小学生くらいの男の子が一生懸命にハンドルを回しているところだった。
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