十七話

 でもね、と彼が、続ける。

「京子と付き合う前日くらいだったんじゃないかな、あれは。その小学校の友達から、携帯にメッセージが入った。


『うわー、助けて! お願い、いつでも良いから話を聞いて。辛い!』


と、イキナリこんな感じ。参ったね。何で? って思った。嫌いな女の先輩とはおさらば出来る訳だし、もう悩みの種はないハズっしょ、って思ってたのに。

 でも、俺はその子が前にこう話していたのを思い出したんだ。


『小三の時さ、私いっつもアスカと居たじゃん』

『ああ、お前ら本当に仲良かったよな』

小学三年、四年と俺は彼女と同じクラスだったんだ。

『良さそうに見えたでしょ? でも私、実はずっとアスカにいじめられてたんだよ。学校に行きたくなくて、何度お母さんの前で泣いてたことか』


 マジかよ? それを聞いた時は、ただ驚いただけだった。でも、メッセージを貰った時にその話を思い出した俺は、こういうのって、突き詰めていくと小さい頃まで遡るんだな、って思ったよ。幼少期の経験が、人に与える影響とその重要性を、身に沁みて実感させられた瞬間だった。

ふと、気づくと携帯が鳴ってた。その友達から、だったよ。俺は、その日は電話に出なかった」



 幼少期の頃の経験・・・。いつだったか。かつて私も彼に同じような事を話さなかったか。私の場合は同級生ではなく、担任の先生だった。どうしていつも私だけ居残りをさせられたの?そして、どうして私に触れたの?低学年の私は訳も分からず、ただじっと終わりを待つだけだった。ただただ怖くて、声も出せず、誰にも言えない。ようやく母だけには伝えたけれど、それでも全部は話せなかった・・・。


 どう、表現すれば良いのか。その経験は精神に食い込んだ傷のようになって、私の心の中に存在している。今も、消えない傷。



 そう、それであの日だ。その次の日。と、彼が、何かを思い出したように、一人と呟いた。


「俺は思いきって、その小学校の頃の友達に連絡したんだ。京子と電車で別れた後に。京子が降りる前に、こんなあたしで良ければ宜しくね、って言ってくれた後に。


『正直、最近のあなたが苦手です。たまにならまだしも、こうも立て続けにあなたの話を聞かされて、少しシンドくなりました』


 こんな感じのメッセージだったと思う。そしたら、その日の内にその子から返信が来たよ。


『今までご迷惑をおかけしました。本当に御免なさい。とりあえず君とは、少し距離を置かせて下さい』


って。彼女とはもう・・・、それっきりだ」



 その友達は俺にそう言われるまで、自分と似たような仲間が出来たんだと思っていたんだろうね、きっと。

そう付け足すと、彼は、少し俯いた。

「ね、冷たいっしょ? 俺」


彼は、その姿勢のまま、独り言のように呟いた。

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