二十一話
自分はネガティブな人間だと彼は言う。ただ、私の彼に対する印象は決してそうではない。高校入学以降のエピソードについては、むしろ前向きに生きようとする彼の姿を感じることができた。
高校に入学。彼は、もう一度バスケット部に入部する。中学生の頃の自分にリベンジしたい、そう思ったらしい。
「高校で部活やっててホント良かった。仲間もできたし、それなりに顔も広くなったと思う」
高校生活に関しては、割と満足出来ていたようだ。
ただ、と彼は言う。
「やっぱり、その時の感覚はその時でしか得られない。俺は、悟ったね。本当はさ、中学生の頃の感覚というか、まあ、そういうものを取り戻したかったんだよ。高校生活の中で、ね。
だけど、中学の頃の感覚は、中学の時にしか得られない。だからこれからは、あの時こうしとけば良かったとか、そういうのは無くしていかなきゃなって思った。後に悔いが残んないようにさ。行動することの大事さを学んだね」
やがて彼は、大学受験を迎える。予備校に通い始めた彼は、そこで例の北大の女の子に出会ったという。
「英語の授業の時だったな。たまたま席が隣になったんだ。席は自由だったからね。一目惚れだった。一目惚れって本当にあるんだ、とも思った。いや、そんなに目立たなそうな子なんだよ。大人しそうだったし。だけど、とても純粋そうで。何て言うかすごい包容力のありそうな子だった」
まだ心の不安定さを自覚する前ではあったけれども、潜在的に安心を求める彼が、その子に惹かれる理由が私にはよく理解できた。その子とは毎週、英語の授業で一緒になっていたらしい。ところが、結局彼は、その子に声をかけられずに高校生活を終えた。行動しなきゃ駄目だと分かっていたハズなのに、その時は勇気を振り絞ることが出来なかったという。
そして、彼の浪人時代が始まる。勿論彼は、同じ予備校に通っていた。彼は、その子のことを忘れることができなかった。毎日、それとなくその子の姿を探したという。もしかしたら、自分と同じ浪人生となっているのではないか、そう考えたためだ。けれど、その子の姿はどこにも見当たらない。
「高校の頃、後に悔いが残らないようにしなきゃって、思ったハズなのに。マジでチキンだったな・・・、俺」
声をかけなかったことを、本当に後悔した。彼は、残念そうに私に語った。
ところがある日、状況は一転する。彼が、国語の授業を受けていた時のことだ。偶然彼は、高3の時に北大の女の子と一緒に授業を受けていた女の子を見かける。恐らく友達だろう、彼はそう思っていた。そして彼は、勇気を振り絞り、北大の子の友達であろうと思われる女の子に、声をかけたのだった。彼は友達と思しき子に事情を説明する。北大の子に辿り着きたい、その一心だった。
けれど、その友達だと思われた女の子は、どうやら予備校で北大の子と親しくなったらしく、彼女の連絡先や進学先など、その一切を把握していなかった。
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