二十話

 彼の話を要約すると、次のような内容になる。尤も、私なりの解釈や受け取り方が含まれるので、彼の想いを全て汲み取れた訳ではないかも知れないけれど。


 彼には、小学校六年生の頃、両想いになった女の子が居た。彼は、この時、一種の自信のようなものを身に付けたという。ところが、中学生になってからその女の子とはすぐに自然消滅。

 彼は、中学校入学後、バスケットボール部に所属していたのだけれども、一年生の終わり頃、自分のプレーが自己中心的だと同じ学年のメンバーに言われ始め、所謂いじめを受けることに。

 小学生の頃に身に付けた自信を、変に空回りさせてしまってね、と彼は、苦笑いを浮かべながら話していた。

 そして、いじめを受けたことで、持っていた自信は完全に消失してしまった、とも。彼は、自分の人柄だったら、絶対にいじめなんて受けるハズがないと確信していたらしい。ところが、その確信は脆くも崩れ去り、結果、彼は部活を去ることになった。


「それからだ。クラスメイトの顔色や機嫌をやたら気にするようになったのは。そして、やたら気を遣うようになったのも。俺はいつの間にか、人の悪口や陰口を言わないようになっていった」



 その後、彼は、同じクラスの友達の支えのおかげで、何とかいじめのショックから立ち直ることができた。それからの彼の中学校生活は、ごく平均的だった。平均的とは、あくまで私の意見だ。彼自身は、あまりぱっとしなかったと話している。

 他の部活に入部することもなく、ずっと帰宅部員として過ごしていたらしい。


「お前、影薄いよな。中三の頃、サッカー部で目立ってたヤツに言われた。同じクラスの。そいつさ、超モテるんだよ。サッカーうまいし、顔もイケメンだし」


 影が薄い。彼は、この言葉に対し、過剰なコンプレックスを抱くようになったという。自分に自信が持てず、考えが後ろ向きになりがちになった、と。

 例えば、友達や塾のバイト仲間の間でも、自分の発言に対して周りからの反応がそんなに返ってこないと、彼は、自分の存在が認識されていないのではないかと思ってしまうらしい。

 他にも、人と二人きりで居る時、相手にわざとおどけて見せても、あまり反応が良くない場合は、自分はつまらない人間なのではないかと感じてしまうらしい。

 

 自身の行いに対し、一定の手応えがないと焦りや不安に駆られるようになっていった。そして、彼は、場が湧かなかったりうまくいかない場合は、自分の方に非があるのではないか、そう考えてしまうようになったと語った。

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