八話
「あ、気に触ったらゴメン。男の間ではこういう話題は自然に出るからさ。
ただまあ、正直俺はこの件に関してはフェイクだと思ってる」
男の子は、どうしてこうも女の子とする、ことに執着するのだろう。確かに、女の子の中にもそういう子は居るけれど。ただの生殖行為じゃない、と私は思っていた。
でもこうも思う。男の子はしょうがない。むしろ、そのしょうがない、が、ノーマルなものであるならば、私は大歓迎だ。喜んで彼に身を捧げよう。後は、そのノーマルな領域を決して飛び出すことのないよう、お祈りでもしておこうか。
「フェイクってことは、本当は何か違うことで悩んでるってことですか?」
私はそう言うと、再び授業記録を取るために右手でボールペンを走らせた。それからほんの一瞬の間の後、
「うん。アイツ、たまにポロっと漏らすんだよ。石川先生は、本当に俺のこと好きなのか、ってね」
健史先生が言った。
「俺としては、そっち方がアイツの中で大きな問題なんだと思う」
私は下を向いていたので、健史先生がどこを向いて話しているのか分からない。でもきっとパソコンの画面を見ているに違いない。キーボードを打つ音が続いているから。
「勿論好きですよ。彼のこと」
顔を上げ、健史先生をしっかりと見据えながら私が言う。やはり、健史先生はPCのディスプレイを眺めていた。
「だよね。きっとそうだと思うよ。アイツも変に心配症なとこあるからな。ただアイツはいつも自分の気持ちだけが一方的で、石川先生からの気持ちが伝わって来ない。感じられない。って言うんだよ」
健史先生が手を休め、四十五度首をこちらに傾ける。
「実はさ、俺もその気持ち分かるんだよね。石川先生の態度見てると。アイツと石川先生が付き合いだした頃から知ってるし」
健史先生には、俺らのこと話して良い? 付き合うことが決まった時、彼が、そう言っていたのを思い出した。
「そんなことはない、と思うんですけど・・・」
素直な意見を伝える。
「なら良いんだけど。きっとアイツは石川先生が、石川先生自身のことをあまり話してくれないのが不安なんだと思うよ」
ミホとは対称的に、結構突っ込んでくるなこの人、と改めて思った。でも、別に嫌な気はしない。この人はそういう人だ。この人なりに彼のことを、心配してくれているのだろう。
「彼には、あたしなりに愛情表現してるつもりなんですけどね・・・」
こうは言ってみせたが、実際、健史先生に言われたことも多少は認めなければならない。『普通』はもっとお互いに自分のことを話すものだ。
そう客観的に判断している自分が心のどこかに居る。私は少し俯き加減になった。
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