七話

ふと目をあけると、窓の外では家々が流れていた。少し経つとまた田園風景。富士山の姿はもうどこにも見当たらなかった。突然、田んぼの真ん中に横長の建物が出現する。

 

 その長さに負けじと続く果てしなき駐車場。建物は三階建程度の高さのようだ。とても新しく、清潔感が漂う。そして、屋上にはその横長の特徴を最大限に活かし、その建物が何処の会社の所有物なのかを、赤い文字で大々的にア

ピールしているのだった。

 看板の赤い文字が某メーカーの名前を告げている。何故このような場所にこのような建物を造るのか、社会人となった今の私にもその理由がよく分からない。研修に使うため? それとも、近くに見守り、維持するべき何かがあるから?



 私は勇気を出して首を左へと傾ける。隣の紳士は前座席の背中にあるテーブルボードのロックを外し、その上でノートパソコンを開いていた。

少しうとうとしていたせいか、この隣の紳士の動きに全く気づかなかった。紳士は何やら一生懸命に文章を打っている。資料か何かだろうか。一瞬の事だったため、判断はできなかった。

 

 逃げられない。いや、出られない。本当はそれとも少し違う。そうだ、普通に、ただ正確に心理を表現すれば良い。正確には、紳士がパソコンを開き、仕事に集中しているので通路に出にくくなってしまった。


ただそれだけのこと。


 何も問題はなかった。逃げられない? それにしても我ながら可笑しな表現が浮かんだものだ。口元が少し緩み始めたが、笑い出しそうになるのは堪えた。




 昭和通り口を出たとこのヨドバシカメラの看板の前で待ってます。待ち合わせの五分前。携帯にシンヤ君からのメッセージが届いた。私は時間きっかりにJR秋葉原駅の昭和通り口の改札を通過する。問題の看板は向かって左前方にあった。

 緑色をした大きな看板だった。近づいていくうちに、横文字の羅列がその姿の詳細を現わすのだった。それは各階に何が売られているのかを示すものだった。その文字に見入りながら更に近づいていくと、誰かがこちらに手を振っているのに気づく。その姿が視界の片隅に入り、認識として意識の中へ流れ込んで来る。


「今日は来てくれてありがとう」

開口一番にシンヤ君が私にお礼を述べた。

「いえいえ。あたしでよければ」

「じゃ、行こうか」

シンヤ君の顔が明るくなった。


 私達は前に向かって歩き出した。昭和通り口を右手に出たことになる。東京メトロの出入り口前を通り過ぎると、左手に有名なカラオケ店が見えた。時刻は午後六時を回ったところだ。土曜日ということもあり、心なしか街を行き交う人々の足取りが軽い。少なくとも私にはそう見えた。


 線路とカラオケのビルに挟まれた路地を進むと、大きな通りに出た。道路を挟んだ向かい側のビルの二階には有名な洋服の量販店。値段が安い上にそのクオリティも高く、今となってはそのお店の名前を知らない人は誰もいないだろう。実際、私もかなりお世話になっている。

 その下には、有名なコーヒーショップが入っていた。こちらにもよくお世話になっている。

 

 通りに沿って左に進んでいくと、すぐに居酒屋の看板が見えた。その看板には様々なお店が一緒に並んでいた。ビルの中に多数の居酒屋が入っているようだった。

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