二十八話(最終話)

私は再び彼の腕の中。

そして、キスをする。

それからは、淡々と。

ふと気づくと、私と彼は、生まれて来た時のままの姿になっていた。

ベッドと彼に挟まれ、私はサンドイッチみたいになった。

やがて、彼が、私の中へと入って来た。

強い圧力を受けると同時に、激しい痛みが広がった。

悪友のトモミが言ってたっけ。最初は超痛い、って。

私は、初めて中に男の人を受け入れた。

彼の、息遣いが聞こえる。


粘膜と粘膜とが触れ合う。

一定のテンポを伴った律動。

私はただ、無言のままに・・・。


いつの間にか、苦痛はどこかに消えてしまっていた。

快楽というものを、理解する。

直に、彼の、変化の予感。

彼の息遣いが激しくなる。

そして・・・

彼は、果てた。


お互いの平衡感覚が、狂いだす。私と彼は、肩で息をしていた。



 その行為は、無事に終わったようだった。しばらくすると、彼は、ベッドから起き上がり、下着とズボンを履いた。私もゆっくりと上半身を起こす。

「寒くない?」

彼はそう言うと、私のカーディガンを上から被せてくれた。

「ありがとう」

私は彼の方の見ずに礼を述べた。彼は、誠実で優しかった。

「風邪引くよ?」

彼が、優しく言った。しかし、私は何故か、彼が被せてくれたカーディガンをゆっくりと脱ぎ捨てていた。

 私は、身動きが取れなくなった。そんな私の様子に気づいた彼は、上半身は何も着ないまま、ベッドに腰かける。

「どうした?」


 そう言って、私の肩にそっと手を回す。彼はこの時、私のことを抱きしめるという、不正解を選んだ。


「ううん、何でもない」

「本当?」

「うん・・・」

けれど、私の肩は小刻みに揺れ始めていた。

「京子、大丈夫?」


 明らかに彼は、不安な表情を浮かべていた。私は言葉では何も答えない代わりに、

彼の胸の中へと顔を沈める。彼の心臓の鼓動音が聞こえた。とても速い周期だった。

 私は震えていた。そして、涙を流していた。彼が、私の背中を優しく撫でた。その瞬間、堰を切ったように、私はわあわあと泣き出した。幼い頃、大声で鳴き声をあげたみたいに。私は生まれたままの姿で、彼の胸の中で泣いた。子供のように泣きじゃくる私の背中を、彼は、そっと摩ってくれていた。



記憶からまだなみだを消せない

この闇の音も

きっとそれはもう癒えない

何処かで知りながら


壊れ行く 夜が 目の前で

何もかも捨てた

お前は月

泣いて眠ればいい



「ま、まもってよ」

嗚咽を漏らしながらも、私はようやくそれだけ言った。

「え?」

 彼は、訳が分からない様子だった。当然だ。私にでさえ、その言葉の意味がよく理解できていなかったのだから。

 けれどそれは、紛れもなく私の本音の言葉なのだった。十三年の時を経て、ようやく私の内から出てきた心の叫び。

「あたしのこと・・・守ってよ」

 私はいつまでも肩を震わせていた。決して泣き止むことはなかった。

 彼の前で、彼の胸の中で、私は初めて泣いた。

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不安と、告白と D.I.O @d_i_o

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