二十七話

 私はまた、ゆっくりと瞳を閉じた。彼の唇と、私の唇とが重なる。彼が、私の背中に手を回して右肩に手をかけると、私の身体をさらに引き寄せる。

 それから、もう一方の手で私の右手を掴んだ。彼の左手の指と、私の右手の指とが複雑に絡み合う。キスをしている間は、私は彼に、ずっと抱きすくめれていた。


 彼は、私を強くを求めていた。まさしく、本当に。けれど、若干のやりにくさも感じているかも知れないな、と一方の私はそんな風に考えていた。

 私のほうが、彼を求めに応える反応が薄いから。私から、彼を、抱き寄せたりしていないから。


 

 ・・・いや、でも実のところは、この私も今までにないほどに彼を強く求めているのかも知れなかった。男性という生き物に対し、一切の抵抗を示さないことで、私は最大限に彼を求めている。

 今日は、私は彼の成すままに応じよう。そう心に決めた。



「やっぱり・・・、嫌?」

彼が、唇を離した。私は目を開ける。彼は、とても真摯な眼差しを浮かべているのだった。

「ううん、嫌じゃない」

私が首を横に振る。

「ふふふ」

彼が、私の笑い方を真似たように微笑む。

「・・・」

何だか私は照れくさくなって、下を向いた。



 私と彼は、ベッドの上に腰かけていた。その頃にはもう、お互いに暗闇に目が慣れていた。彼が、私の首筋に掌を当ててくる。私は一瞬、敏感になった。


「ホントに大丈夫?」


彼は、ニヤニヤしている。まるで、悪戯小僧のようだった。ところがそれは、彼の、敢えておどけているように見せかけるためのパフォーマンスであることに、私は気づく。私の首に触れた時の彼の手は、とても冷たかったから。

「大丈夫」

私は、はにかむような振る舞いをした。多少の恥じらいを垣間見せつつ、こうやって応じれば良いんだろう。多分。


それから私は、

「続けて」

と、彼に先を促した。

「かしこまりました」

 ・・・どうやら彼のパフォーマンスはまだ続いてるらしかった。何だか可笑しくなってしまい、

「ふふふ」

と、小刻みに肩を揺らした。



 彼は、手を私の首筋から肩に移動させた。黒のカーディガンの生地を通し、私は強い握力を感じた。

「京子って、マジで色白いよね」

 そう言ってから、彼は掌を当てていた私の首筋の部分に、そっと唇を合わせてきた。

 ちょっぴりくすぐったい。それと、色白い、というのは私の肌の色のことか。そんな分かりきっている事に、私はワンテンポ遅れて気づく。


「良い匂いがする。まさに甘い香りが鼻腔をくすぐる、ってヤツ」

彼は、またもニヤリと口笑いながら、

「でも、ちょっぴりしょっぱい・・・」

などと宣うのだった。


「・・・ばか」

私はまたも恥ずかしくなってそっぽを向いた。そんな中、長い距離を歩いた末に、彼と撮った写真について思いを巡らしていた。

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