不安と、告白と
D.I.O
第一章
一話
車内アナウンスが目的地駅の到着予定時刻を告げた。
時刻表通り、あと一時間半もすれば目的の駅に到着することができそうだ。
新幹線の窓の外には広い田園風景が広がっている。遥か遠くには富士山も見えた。
今日はとても天気が良く、空気が澄んでいるので、山頂を覆う雪化粧が私の瞳にとても鮮明に映った。
彼に会いに行こう。私がそう決心したのはつい三日前のことだ。幸いにも今日はお互いに仕事が休みだったので、絶好のタイミングだったと言えるだろう。彼の告白、そう、五年前の彼の告白とは、結局その告白は彼と私との恋愛関係に終止符を打たせることになってしまったのだけれども、彼のもう一人の姿を写し出したものだったのだ。
別れは、彼から、告げられた。その時の私は、彼のことを、追いかけず。
でも、彼のことが、忘れられなかった。私が出会ったきた人間の中で、あれほどまでに詳しく自身のことを語ってくれた人間は他に居ないだろう。
「考えすぎは身体によくないって、頭では分かってるんだけどな」
この彼の口癖に、私は一体どれだけ同調したことだろうか。そして、その度に私は
「そんなに深く考え込まなくてもいいんだよ」
と彼に言ったものだ。
私は車内にある自動販売機でコーヒーを買うために席を立った。販売機のある車両の通路を歩いていると、突然視界が少し暗くなった。
どうやらトンネルの中に入ったらしい。コーヒーの缶を手に取り、通路を来た通りに戻る。途中、ふと乗車ドアのガラスに映る自分と目が合った。その顔はすごく楽しそうに見えたし、どことなく不安にも見えた。
彼と初めて会ったのは、塾講師をしていたアルバイト先だ。講師と言っても、そのほとんどは大学生のアルバイトである。当時、私は大学三年生であり、彼は大学二年生。彼は一年間浪人を経験していたため、年齢は私と同い年ということになる。
とても明るそうな人。それが彼の第一印象だった。時々わざとふざけた事を言って、周りの講師達をよく笑わせていたのを覚えている。ウィットに富む、と表現するのが最も適切だろうか。とにかく、彼には、場の空気を和ませる魅力があった。敢えて悪く表現するならば、少しチャラチャラしているように見られる節も彼には確かに存在した。
しかし、それらが彼のすべてではなく、本質でもないのだった。
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