十二話
話している途中で思い切って打ち明けてみたんだ。と、彼は私の目を見つめてから前方を向いた。
「『俺、軽い躁鬱病なんじゃないかと思うんです』
って。そうだと思い込んでたから。そしたらおばさんは、
『何を基準に判断してるの?』
って返してきた。何を言ってるんだと思ったよ。浮き沈みが激しいんだから、躁鬱に決まってるじゃん、って。この時の俺は、典型的な素人判断をしてた。
質問が終わったら、もう一度待合室で待つように言われた。椅子に座って待ってると、診察室の方から男の人の声が聞こえてきた。ああ、診る人は男の先生なんだ、って思った。
しばらく待った後、遂に俺の名前が呼ばれた。診察室に入ると、ゆったりとしたチェアに座ったおっさんが待ってた。髪も髭もほとんど銀色。白衣を着てた。俺が椅子に腰かけるや否や、
『今日はどうしたの?』
って気さくに話しかけてくるんだ。俺は、もう一度簡単に状況を説明したよ。いつからこんな風になって、それからどういう状態が続いているのかをね。そしたら、そのおっさん先生は
『ちょっと、これやってみてくれる?』
と言って、小さなシートと鉛筆を手渡してきた。
箇条書きで書かれた五つの項目があって、当てはまるものには丸をして下さい。そんなやつ。やってみたら三個くらい当てはまった。
印象的だったのは、あなたは何度も確認しますか? っていう項目だった。そう言えば俺はよく、玄関に鍵をかけたっけ、クーラー消して来たっけ、って思うことがあって。それを確認するために、しばしば家に戻ることがあったんだ。
『ああ、やっぱりな』
シートを見たおっさん先生が、開口一番にそう言った。
『君は躁鬱なんかじゃないよ。まあ、似たような症状を誘発することも、あるにはあるみたいだけど』
この病気には、ね。おっさん先生はこう付け足してきた。
マジで? 嘘でしょ。
俺は思った。でも、どうやら本当に違うらしい。
『強迫観念だね。不合理な事で悩んでいることに、自分でも気づいているのにそれを振り払えない。不安を取り除きにくくなってしまう。まあ、そんな症状が君には軽く出てるね』
あ、軽くなんだ。その時の俺は、素直にそう思った。何だかすごく安心もした。
『薬飲めば治る病気だから、安心しなさい。今は薬もかなり進歩してる。それに、一人で何か集中してやれることを見つけるのも効果的だ。とにかく、これは病気なんだ、って。先ずは認識することが大事。身体だって風邪ひいたりするでしょ? 心も一緒。
君の場合、小さい頃からそういう節があったんだと思うよ。それが今、大人になって自覚するようになっただけの事さ』
笑いながらおっさん先生は言ってたよ」
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