二話

 窓の外では、小高い山が多く走るようになってきた。山の斜面中腹にポツンと一軒家。大きな二階建ての家のようだ。二階のベランダに洗濯物が干してあることから、人が住んでいるらしい。もし小学生や中学生のくらいの子供が居るととすると、学校まではどうやって行くんだろう、と私は思った。そもそも近くに学校はあるの?

 学校。先生。塾。義務教育。先生、教員、教師。よく考えられた教育システムだ。


「細い腕が、綺麗な、君の嘘。雨に濡れ、佇んだ希望も嘘?」


 ふと、彼が、カラオケで熱唱している姿が目に浮かんだ。この次のフレーズは何だっけ? 私はしばらくの間、その先を思いだすことに集中してみるも、結局思い出すことができなかった。



 とある金曜日のことだった。昼間、私は東京メトロ明治神宮前駅で降りた。街はとても賑やかで、緑色の髪をした女の子とすれ違う。顔は日本人だ。正確にはアジア系の顔と言う方が正しい。交差点前方の右の建物に大きなスクリーンがあった。

 液晶の中で、今度は外人の女の子が歌いながら一生懸命に踊っていた。真っ直ぐ進めば表参道へと続く道を左に折れ、道路沿いに歩く。左手に大きな有名カラオケ店。次第に竹下通りと書かれたポールが見えて来た。途中、何度か男の人に話しかけられたような気がしたが、特に気に留めることなく私は歩みを進めた。

 

 美容室へと続く階段は螺旋状となっており、色はオレンジだ。私が扉を開けると、

「いらっしゃいませー」

元気でハスキーな声が私を歓迎してくれた。

「二時に予約してあった石川です」

私は、カウンターの奥に立っていたハスキーな女の子に笑顔で応えた。

「久しぶりね、京子。荷物は後ろのロッカーにお願いね」


 私は頷くと、持っていたバッグをロッカーの中に入れ、鍵を閉めた。店内を眺めると、私以外にも一人のお客さんが居た。女の子で、私と同い年くらいに見える。ちょうど髪を切り始めるところだった。


「上着も預かろっか?」

ミホが尋ねる。

「うん、お願い。あ、あと貴重品もお願いできる?」

「オッケー」


 サロンは全体的に白をベースとしており、奥行きのある細長の造りだった。カットをするための椅子だけが黒調のもので、正面の鏡の額縁の色も白だった。不思議なもので、どれをとっても全てがお洒落に見えた。

 ミホと私は一番奥にある台に移動した。タブレットが二台置いてある。ミホが私に座るよう、椅子を勧める。私が座ると、すぐにミホも腰を下ろした。


「それで?今日はどうする?」

ミホがタブレットを操作しながら、画面に見入っている。前回、切り終わった際に撮った私の画像データを探しているようだった。

「前と同じ感じで、お願いします」

「伸びた分だけ切って、全体的に軽くするのね」


 そう言うと、ミホが私の髪の毛を右手で触り始める。私の髪がどれだけ伸びたのか、またはどれだけ切ればいいのかを見定めているようだった。

「たまにはバッサリいっちゃいなよ。それに色を軽く落とせば、だいぶイメチェンできるよ」

タブレット画面の私の姿を見比べながら、ミホが私に提案する。


「ロングのままでだいじょぶ。色も黒髪のままで」

「京子はまだ学生でしょ。今のうちだよー、髪の毛も遊ばせておけるのは」


 その様に言う社会人のミホの髪は、ショートでパーマが掛かっていて、ふんわりとカールしていた。かなり明るくて、ブロンドに近い。ミホは美容師だからな、と私は自分を納得させる。私の真っ黒な髪とミホのそれのギャップが何だか面白く感じられた。

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