十四話
「いつも悪い方向に考えてしまう。
何か重い病気なんじゃないか、
心臓病なんじゃないか、こんな具合にね。
一瞬パニックになりそうになる。やがて少しずつ気分は落ち着いていくんだけど、心のどこかに、もしかしたら心臓が悪いんじゃないか、っていう考えが憑いて回るんだ。そんな訳ないじゃん、って思ってる自分も居るのに。でも、心から離れない。不思議なもので、そう思い続けていると、段々と心臓の状況が酷くなっていくような感じがしてしまう。そんで思いきって病院に行ってさ、心電図とかやるんだけど、何も異常は無しなんだよね。
『精神的に依るものだと思うけど』
お医者様にはこう言われたよ。異常が無いってことが分かると、やっと安心し出して、気づいたら治ってる。気にしなくなってる。
そして、次に移るんだ。振り払いにくい考えの対象が。例えば、今度はお腹とかさ。不安な周期の時は、そんな感じかな。調子の良い時は、至って普通。むしろ忙しいくらいの方が調子良かったな。
京子と付き合い始めの頃、俺、今の塾のバイトと掛け持ちで違うバイトしてたっしょ?南船橋の工場での短期バイト。アレ結構忙しかったんだけど、工場バイトやってた時は、余計な事考えずに居られたんだ。
学校、塾バイト、工場バイト。良いサイクルだった。勿論、バイトを始めた当初は不安が増したよ。でも慣れてくるとさ、調子良くなるんだよね」
しばらくの間の沈黙。彼は、何かを躊躇しているかのようだった。けれど、やがて意を決したように、
「驚いた?」
と、私に問いかけてきた。
「何が?」
と、私も彼へと訊き返す。
「俺が、こんな状態であることが」
「ううん・・・。へえ、そうだったんだ、って感じ」
彼は更に訊いてくる。
「引いた?」
「何に?」
「俺が、精神科に通っていたことに」
「いいえ」
私はきっぱりと答えた。引くなんて、そんなことがあるハズがない。尤も、先程と同様、これは私だからそうである可能性もあるけれど。
「ただ、同情というか、共感というか、そういうの、うまく出来ない。出来ないというか、分からないの。自分で体験してみないと・・・。だからあたし、きっと冷たい人なんだろうな」
「冷たい? そうかな・・・。俺には、京子が冷たい人には見えないけど」
「ふふふ。冷たい人よ」
私は彼に向って、薄く微笑んだ。
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