二十三話
「いざ、北大の子に会っちゃうとさ、気持ち、抑えられなくなったんだろうな。運が悪かったというか何というか、たまたま時期が例の生徒二人のことで悩むのも重なった。
色々と自分の中に閉じ込めて置けなくなったんだと思う。・・・そして、俺は、あの夜を迎えたんだ」
陽が少しずつ傾きかけてきた。この季節は日が暮れるのが早い。私は、少し憂鬱な気分になった。
朽ち果ての 夢で巡る ハルカカナタ
滲む空は
ただ、ただ・・・暮れる。
彼がカラオケで熱唱していた歌のフレーズがふと思い出される。
「それで、その北大の子とはどうなったの?」
自分の気を取り直す意味も込めて、訊いた。
「・・・告白しちゃった。俺の本当の気持ちの方を。心が不安定になる事を自覚した後、すぐに」
向こうに彼氏さんが居るのを知ってて。彼は、そう付け加えると、悪戯っぽく笑った。
「そっか」
私は前を向いて言った。それ以上は何も訊かなかった。この時は訊かないことにした。そして、私達はしばらく黙って歩みを進めていた。
「だから今日は、正直に京子に告白します」
彼が、いきなり沈黙を破った。
「あ、はい」
畏まった様子の彼にビックリして、ピンと背筋を伸ばす。彼の方に顔を向けると、彼も確りと私の目を見据えていた。
「やっぱり俺、京子のことが好きです。大好きです」
沈黙。
お互い、照れのせいか、彼は再び前方へ、私は俯き加減に、顔と視線の方向が移動する。
「本当はね、まだよく分からないんだ。京子のこと。だからさ、ぶっちゃけると、例の不安と緊張に包まれることが多いんだ。京子に関することでね。
疑うことも何度もあったよ。信じたいものを信じたくて。京子のことを、信用したくて・・・。九月からお互いの出勤日が変わってさ、塾ではもうあんま会わなくなったじゃん。カップルってのは、週一とかで会ったりするのが普通だと思ってた。
でも、京子の場合は違う。月に二回デートする感じだ。予定合わない時なんて月一だ。だから、正直に言うと不安になる。俺と会ってない時はどうしてるんだろう、とか、こんなに会う頻度が少ないと、京子の俺に対する気持ちが続かないんじゃないかって。
そもそも、京子は俺と会う気があるのかな、って思い始めたりもすることもあった。俺に対する気持ちは本当にあるのかな、って。メッセージも全然返ってこないしさ。全く、俺の方が女の子みたいだ」
「・・・」
咄嗟の返事も出てこない。きっと私の左手は、冷たくなってきていることだろう。
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