第42話 『サーシャ様、おならを貯めるのは身体によくないです』

 私がハイハイしてベットの下から這い出すと、王様が私を抱え上げてベットの上に乗せてくれた。


「今回は助かりました」

「あっちたすけえう」


 王様には失礼かもしれないけど、私は別にこの国の民ではないし。

 ラッキーが尻尾で私を背中に乗せてくれると、先にメイドの治療をすることにした。


 のどが潰れてすぐに処置しなければこのまま窒息して死んでしまう。

 もう顔色が真っ青になっていた。


「だう」


 首の傷口に回復薬をかけて、口の中に瓶を突っ込む。

 少し雑だけど、回復効果に違いはないので許して欲しい。

 回復薬を作るよりも、自分の身体を動かす方が苦手なんだ。


『ごしゅじん様、助けると目撃者が増えますけど殺しますか?』

「だーう!」


 今助けているっていうのに……。ラッキーの気持ちはわかる。

 一人でも目撃者は少ない方がいいのはいいのだ。


 だけど、目の前で死にそうになった関係ない子を助けないわけにはいかない。

 それにこの子なら多分大丈夫な気がする。


 年齢は10代後半くらいだろうか。

 ボブくらいの茶色髪の毛が特徴的で可愛い顔をしている。


 なんども赤切れになって、それが治らないうちに赤切れができたのか、手には擦り傷の跡や沢山のシミができ服は王様付きのメイドにしては汚れていた。


 子の子はきっと、意識がない王様の面倒を押し付けられていたのだろう。

 だけど王様の意識が戻ればきっと、特別な地位になることができるはずだ。


「そのメイドまで助けるのですか? レティ様……御慈悲を頂きありがとうございます」

「あいっ」


 王様には軽く手を上げて答えておく。

 うん。大丈夫そうだな。

 徐々に傷は塞がり、呼吸も戻ってきた。


「だう」

 ラッキーが私をまた抱え上げると、王様のベットの横に置かれた椅子の上に乗せてくれた。さて、問題はどうやって王様に話をするかだ。


「キャッー! 殺さないで!」

 メイドの女の子が叫びながらいきなり飛び起きると、喉を抑えた。


「あれ? 私……死んでない? いや、ここは天国ね。手の傷も治ってるしすごく調子がいいわ。それに死んだフォレスト王もいらっしゃるし」

 彼女はすっと立ちあがると、直角に近いくらいまで頭を下げる。


「お初にお目にかかります。メイドとして雇われた、ケイティです。没落した元男爵のシンディ家の長女として生まれ、運よくフォレスト王にお仕えできたんですが、お供が死出の旅となってしまい申し訳ありません」

 その姿や動きはとても洗練されており、凛とした美しい女性だった。


「ずいぶん可愛い死神さんなんですね。それで私たちはどうすればいいでしょうか?」

 辺りを見回すも私もラッキーも説明してあげることができない。


「ケイティ、残念だが死ぬのはもう少し先になった。まずはこの部屋に誰も入れないように入口の閉鎖を頼む。あと私は意識を失うが、誰も私の身体に触れぬようにしてくれ」

 ケイティは辺りを見回し、何かを理解したのか頷く。


「二度と同じ失敗はしないと誓います。フォレスト王、武器と魔法の使用の許可を頂けますでしょうか?」

「任務遂行のためなら必要なものはすべて使え」

「承知しました」


 ケイティは頷くと部屋の扉と窓が見えるよう、武器を抜いて仁王立ちになった。

 なんだろう……。


 人生で初めてこんなに重苦しい空気を感じたけど、急におなら出そうなんだけど。

 言い出せる空気じゃないし、私も大きくなったから恥ずかしい。


『サーシャ様、おならを貯めるのは身体によくないです』

 こういう時ばかりまともに話す駄犬ラッキーを叩こうと思いっきり手を振ると思いっきりバフッと音がなり気まずい空気になった。


 ラッキーめ、絶対に許してあげないんだから。

 少し涙目になっていると、フォレスト王が幽体離脱のように体から半透明の分身が起き上がってきた。


「夢魔法での分身は匂いを感じませんから安心してください。それではこちらへお越しください」

「だう! だう!」


 ここにも失礼な奴が……助けるんじゃなかったと少しだけ後悔したけど、私とラッキーは大人しくフォレスト王の後をついていくと、沢山の本がある部屋に案内された。

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