第31話 『ごしゅじん様、そこはダメですぅぅぅぅ』モフモフ
「失礼するよ」
マーガレットたちが私の護衛団を作ると冗談を言い合っていると、お父さんが部屋の中に入ってきた。昔からくらべるとだいぶ顔色もいい気はする。
本当に体調悪いのだろうか?
ただ、昨日の事件もあり疲れている顔はしていた。
「ハダス第三王子、この度は警備の失態によりとんだご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いえ、本来であればこちらで対応しなければいけないところをご対応頂きありがとうございます。おかげさまで、うちの執事も助かることができました。金銭的な負担などはすべて父へ請求して頂くように手配させて頂きました」
「いえ、それはお気になさらずに」
「そうはいきません。もし、僕がここで暗殺されていれば両国間で戦争にだってなっていてもおかしくはありませんから。それとこの家での居候を許可した頂きありがとうございます」
「いえ、ギルバート殿下もいつも来ていますが、一緒に移動となると警備上の安全が担保されませんので、お好きなだけご滞在して頂ければと思います」
「ありがとうございます。父の体調が回復すればいいんですが、そう言えば最近体調が悪いとお聞きしましたが、お身体の方は大丈夫ですか?」
「ご心配ありがとうございます。特製の回復薬を作成していまして、それのおかげで少しずつ良くなってはきているんですが、病気の時期も長かったものですから、完全回復までは時間がかかりそうです」
なんと、お父さんは回復薬を作っているらしい。
だけど、そんなのを今まで聞いたことはなかった。
まぁ元々すべての仕事を知っているわけではなかったけど。
そうか。お父さんも回復薬を作っているのか。
そのうち薬草畑とか見せてもらいたいな。
「そうですか。ぜひ特製の回復薬を見せて頂きたいのですが」
「ばぶっ!」
私も見たいとアピールしておくが、さすがにそう簡単ではなかった。
「申し訳ない。これは我が領地の中でも特別に力を入れている事業でして。さすがにハダス殿下とは言っても……」
「そうですよね」
ハダスは粘らずにさっと引いた。
そこで粘るということは国同士での取引に発展しかねないからだろう。
小さいのに本当に利発な子だと思う。
「その他のことでしたら、不自由がないようにできることは手伝わせて頂きますので」
「お気遣いありがとうございます。あまり回復薬は回復魔法協会がいい顔しないと父からも聞いておりますので、情報の流出にはお気をつけてください」
「お心遣い感謝します」
ハダス王子は私への対応意外、かなりまともだった。
お父さんはあいさつしてから、私を抱っこしてほっぺたを私の顔に押し付けてきたので、とりあえず軽く握っておいた。
キレイなバラには棘があるものだ。
お父さんがほっぺったをさすりながら部屋からでていくと、また護衛団の話に戻った。
「さっきの話なんだけど」
「回復薬ならもうないよ」
「違う。サーシャの護衛団。仮にだけど何から守る設定で作るの?」
ハダスからの質問に、マッシュ、ギルバートの顔が少しこわばった気がしたけど、私を狙うような人物がいるわけない。
むしろ、狙われるのはハダスの方だろう。
「そうね。例えば世界を影から牛耳る悪の協会から守るなんでどうかしら?」
マーガレットの発言に背中に嫌な汗が流れる。
決しておしっこが漏れて背中まで流れていったわけではない。
「悪の協会って?」
「悪の協会は悪の協会よ。何から守るよりもどうやって守るかの方が大事じゃない?」
「それもそうだね」
マッシュたちが架空の護衛団の話をしている中、私は悪の協会について考えていた。
マーガレットは何かに気がついたのだろうか?
私にとって協会と言えば回復魔法協会でしかない。
今回の回復薬も本当だったら渡さない方が良かったのかもしれない。
だけど、自分の身の安全のために誰かが苦しんでいるのを見過ごすことはできなかった。
『ごしゅじん様、悩まれてる顔も天使です』
「ばぶっ」
ラッキーはもうアホ犬すぎて困る。
まぁでも、考えすぎてもできることは少ない。
少しずつ身体にも慣れてきたことだし、まずはそうだな。
ラッキー一緒に寝よう。
ラッキーが私を寝台の上から、ラッキーのお腹の上へと移動させてくれる。
今のこの時期でしかきっとこのモフモフベッドで寝ることはできない。
そう思いながらラッキーのお腹をむぎゅむぎゅとくすぐり眠りについた。
『ごしゅじん様、そこはダメですぅぅぅぅ』
ラッキーの可愛い叫び声にニヤニヤしてしまったのは秘密だ。
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