第30話 結成! サーシャ護衛団
ぬくぬくとした日差しとラッキーに包まれて、気持ちのいい朝を迎えた。
昨日はだいぶ遅くまで騒いでいたけど、ラッキーが側にいてくれたことで安心して眠りにつくことができた。
私が目を開けると、目の前にニコニコと笑みを浮かべるハダスの顔があった。
「だぁ」
まだ帰っていなかったようだ。
『ごしゅじん様、おはようございます。今日も天使のようで忠犬ラッキーは生きてて良かったです』
またアホになってるけど、これが通常運転だ。
「サーシャ様、昨日はありがとう。色々助かったよ。君はまるで天使だね。僕は今、君が生まれてきたことに神々に感謝をしているところさ」
ちょっと、アホが一人増えているんだけど?
「サーシャ、そのアホの面倒を家で見ることになったらしいよ」
今日も、安定して私の部屋がみんなの集まる場所になっていた。
というか、昨日の襲撃を受けて子供だけで集められたのかもしれない。
私たち以外大人はいない
「お義兄様、何をおっしゃるんですか。アホではありません。気軽に弟とお呼びください」
「なんでお前が弟になるんだよ」
マッシュがクッションを投げつけるけど、それをいとも簡単に受け取り、私の頭の下へと入れてくれた。
「まぁマッシュはサーシャ大好きだから、まずはマッシュを攻略した方がいいぞ」
「ギル、うるさい」
「そうよ。私だってサーシャのこと大好きなんだから、先に私を倒してからにしなさい」
本当に兄弟愛に厚い二人だ。
もちろん、私だってこの二人を守るためならなんだってする。
でも、なんで急にハダスが私の家で面倒を見ることになったのだろう。
「まずはサーシャ様、今回の襲撃を助けて頂きありがとうございます。おかげさまでカルヴィの傷はすっかり治っていました。あとでこの小瓶のお礼はまた別でさせて頂ければと思います」
私は眠くてついスローライフ仲間だからと、ハダスに回復薬を渡してしまったけど、かなりまずいことをしたことに気がついた。油断していた。
下級回復薬とは言っても今この世界では回復薬は高価であまり出回るものではない。
そんなものを私が持っていることも、それを気軽に渡すのも異様でしかないのだ。
私は助けを求めてマッシュの方を見る。
「ハダス、それを妹から奪ったのか?」
「お義兄様、なにをおしゃっているんですか、そんなことするわけはありません。心優しい天使様が私の生涯と引き換えに賜ったものです」
「はぁ? 本気で言ってるのか?」
「もちろんです。だから先ほどからお義兄様とお呼びしているじゃないですか」
「生涯と引き換えでも旦那になるとは限らないだろ。それに……」
そうなのだ。あの回復薬を大っぴらにしたら困るのは私たちだ。
あれが何かを知っているのは私とマッシュしかしらない。
マーガレットもギルバートも知らないのだ。
「マッシュ、その小瓶ってもしかして……」
ギルバートが何か言いたげに小瓶を見つめる。
もしかした、ギルバートにもバレているのだろうか。
それならかなり不味い。
でも、どこかでギルバートとマーガレットには話さなければいけないと思っている。
だけどそれは今じゃない。
ギルバートは少し貯めた後にゆっくりと話し始めた。
「俺があげたあの回復薬をサーシャに持たせていたのか?」
「あぁ、それをサーシャから貰って執事に使ったみたいだな」
「あれ、これってもとはギルのなの?」
「そうだよ。マッシュの親父さんの体調が良くないからって、聞いてたからサーシャさんから渡してもらおうとしていたんだよ。今回だって体調不良で小規模にしていただろ」
「そうだったんですね。それは申し訳ないことをしてしまいました。でも、おかげで助かることができました。本当にありがとうございます」
ハダスは私たちへと深々と頭を下げる。
「いいよ。そのかわりサーシャはお前にはやらない」
「それは安心してください。勝手にサーシャ様をお慕いさせて頂くだけですから。僕がサーシャ様を一生涯守ると決めたんです」
「あっそれなら俺たちでサーシャ護衛団でも作る?」
「ギルまでふざけるなよ」
「でも、いいんじゃない? 騎士団ごっこみたいなものでしょ。遊びよ、遊び」
「僕の慕うってのはそういう意味じゃないんだけど」
マーガレットが賛成したことで、私を中心とした護衛団を遊びで作るノリになってしまったけど、私に護衛団とかまったく必要ないでしょ。
むしろ目立ちたくない私としたら、できるだけ平穏に過ごしたい。
それに、そんなごっこ遊びを人前でするってめちゃくちゃ恥ずかしいし、護衛ならラッキーがいるだけで十分だ。
遊びとは言っても私が守られる側になるってことは、みんなの前でお姫様扱いをされるとか、なにその羞恥プレイ。それでなくても平民出の私には今の状態だってかなり心苦しいのに。
はぁ、本当に過保護すぎる。
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