第29話 ハダス(隣国王子)視点
ハダス視点
「カルヴィ! 大丈夫なのか?」
「ハダス様、ご無事でしたか。いきなり賊に襲われ、申し訳ありません」
「いや、それよりも怪我はどう?」
「後ろから殴られた箇所の痛みは……なくなっています。左の脇腹も刺された……いえ、なんともないようです」
「それなら良かった」
サーシャがラッキーに連れられて戻ってから、僕は部屋にカルヴィと二人取り残されていた。
家中で蜂の巣を突いたかのように大騒ぎになっている。
この問題はすべて僕の家のせいだ。
まさか隣国にまで刺客を送ってくるとは思わなかった。
「私を襲った男は? ハダス様がお倒しになられたんですか?」
「いや、ここの警備……犬が倒してくれた。もう心配ない」
「そうですか。それなら安心です」
僕は未だに目の前で起こったことが信じられなかった。
それに……こんなことを考えてはいけないと思いながらも、不吉な予想が僕の胸の中をよぎった。
『サーシャは最恐悪女レティの生まれかわりではないのか』
そんな疑念がでてきたのだ。
この国では最恐悪女レティとなっている悪女も僕の国では、隠れレティ教信者が多く聖女として伝わっている。
もちろん、表立って回復魔法協会へ対立するわけにはいかないので、この情報を表立って言うことはできない。
だけど、僕のひいひいじいちゃん、先々代の王様はレティの回復薬で回復し、歴代の王様の中でも一番国民のために尽くした、賢王として伝説となっている。
小さな時に病気をして、それを回復させてくれたことを表立って公表できなかったことを後悔し、それでも何とかレティの悪名を無くそうとも努力をして、一時期は回復魔法協会とも争ったりもした。
だけど、信念よりも国民の利益を最優先として、レティ教は地下へと潜ることになった。
この国の人には言えないけど、レティ教の主な支援者は間違いなくうちの国だ。
そんなうちの国に先日、父宛てに回復魔法協会から一通の手紙がきていた。
そこには魔獣フェンリルが失踪したことと共に、最恐悪女レティが復活した可能性について書かれていた。
父は、「また寄付金が欲しいのか。金の亡者どもめ」と吐き捨てていたけど、あれがもし本当だとしたら?
ちょうど魔物たちが世界中で騒ぎ出した日というのはレティが生まれた時期と被る。
そして消えた魔獣王フェンリルとあの狼犬。
魔獣王がもし身体の大きさを自在に変えられるとしたら?
牙が折れている共通点も……なんてことを考えだしたら止まらなくなってしまう。
「ハダス様この度は襲撃を防げず申し訳ありません」
「いや、大丈夫だよ。問題には対処できた。それが僕たちの力じゃないとしてもね」
もし彼女がレティの生まれ変わりなら、僕はそれを報告しなければいけないだろう。
それが世界の為だと思う。
そう世界のため。
だけど、父は僕にいつもこうも言っていた。
「目に見えるものを信じなさい。甘い言葉を囁くのは詐欺師でもできる。困った時に誰がどう行動したかで人の本質が見えるから。そこで助けてくれた人のことを忘れちゃいけない。そこで口だけだった人も忘れちゃいけない。そいつは間違いなく裏切るから」
それに回復魔法協会を父も僕もあまり信用してはいなかった。
父の病気はもう何年も続いている。
悪くなったり、回復したりを繰り返しながら。
回復魔法協会の連中は悪化しないだけマシだと言うが、本当にそうなのかわからない。
手に残っているからの回復薬を見る。
こんなに効く回復薬を僕は見たことがなかった。
怪我をしたら高いお金を払って回復魔法協会から術師を連れてこなければ回復できないのが一般的だった。
一部粗悪品の回復薬も出回っていたりはするけど、こんなに効果は高くないし、こんなものを気軽に人に渡していいはずはない。
そもそもお披露目会を今日開催しているサーシャが回復薬を所持していることがありえないのだ。
それに体調が悪いと言われていた公爵様はかなり元気な様子だった。
この国の中、いやこの公爵邸の中でレティを中心に何かが起こっている可能性がある。
「あぁーくそっ」
「なにか悩み事ですか? その瓶は?」
「まだ何も言えない。だけど、この国に来たのは正解な気がする。カルヴィ、今回の件はすべてうちの国の不手際として処理をしてくれ」
「かしこまりました」
幸いにもカルヴィは自分が回復していることに疑問を持っているだろうけど、こちらが質問しなければ、それ以上深いことは聞いてこない。
情報統制と管理に関しては徹底されている。
僕は強くその瓶を握りしめる。
サーシャには僕の命を救ってもらいカルヴィも助けてもらった恩がある。
仮に彼女がレティの生まれ変わりだとしても、それに何の問題があるというのだろう。
少なくとも今の回復魔法協会は金を集めること以外、たいしたことをしているようには思えない。
それなら、この回復薬を広めた方が助かる人は増えそうな気がする。
そのためには……サーシャを守りながら、もっとこの国のことを深く知る必要がある。
上手く行けば、それが父を助けることにつながる。
そうすれば王の選別を父の力で実施することができる。国内で争う必要がなくなるのだ。
「カルヴィ、至急頼みたいことがある」
「なんなりとお申し付けください」
色々と忙しくなりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます