第14話 0歳にして最初で最後の挫折と家族を守る誓い
私が後ろからでようとすると、それに気がついたお父さんに止められてしまった。
「サーシャ、大丈夫だからラッキーと部屋で遊んでるんだよ」
「だぁー?」
「ここはお父さんに任せてくれ。お父さんだってやる時はやるんだから」
「ばぶっ」
私はそこで諦めたフリをして、お父さんを陰ながら見守ることにする。
お父さんが玄関へ行くと、すぐに怒声が聞こえてきた。
「おせぇじゃねぇかよ。あんなに大声で呼んでやったんだから、すぐに来るのが普通だろ? 誰がいつも苦しい時に助けてやってると思ってるんだよ」
どうやら魔法肺炎もろくに治せないクズ回復魔法使いはあいつらしい。
つまり……あれらが回復魔法協会の奴らの可能性が高い。
「申し訳ない。この通り足が悪いもので」
「足が悪いんだったら常に玄関前にいればいいだろ。頭使えよ。使う頭ねぇならさっさと死んで長男に席を譲るんだな。そしたら、お前の奥さんは俺が面倒見てやるからよ。安心していいぞ。グフフ」
太った男の嫌悪感がさらに増す気持ち悪い笑い方をしてお父さんとお母さんを侮辱してくる。
たいして力のない私の手に力が入る。
お父さんがいじめられているのに何もできないのが辛い。
『ごしゅじん様、サクッと追い返しますか?』
「んばっ」
ここで揉め事を起こすのはまずい。
感情のままに動けば必ず後で後悔することになる。
やるなら、絶対に証拠が残らない方法でやるしかない。
「今日はどのようなご予定で来られたんでしょうか?」
「こないだ言った牛と豚をもらいに来たんだよ。まさかこんなに隠しているとはな。見たところ二千匹以上いそうじゃねぇか。もちろん回復魔法協会に全部よこすんだろ?」
「いえ、これを全て渡すわけにはいきません」
「おぉ、随分強気になったな。肺の病気が悪化しても治してやらねぇぞ。そろそろ苦しくなってくる頃じゃねぇか?」
「それが、最近だいぶ調子がよくてサルザス様のお力をお借りしなくても大丈夫そうなんですよ」
「そんなわけないだろ。あれは自然には……ゴホッ。何か飲んだのか?」
「いえ、娘が生まれたことで元気にならないとって身体が反応したのかもしれません」
あいつ……。間違いなくお父さんが魔法肺炎であることを知っていた。
普通に何も知らなければ他の回復術師に治してもらったのかと聞くところを、何か飲んだのかと聞くってことは、あれが回復薬でしか治らないことを知っていたのだ。
それなのに、長年根本的な治療をせずに対処療法だけ放置し続けたのだ。
「ばぶっ」
絶対に許さん。
私が暴れそうになるところをラッキーが慌てて押さえつける。
『ごしゅじん様、ここはまずいです』
今さっき私が言ったことを言われたが、そんなこと知ったことか、こうなりゃ全面戦争だ! 回復魔法協会なんて私が潰してやる。
『ごしゅじん様、いい考えがありますからちょっと落ち着きましょ』
「ふーは、ふーは。ばぶっ」
少しだけ冷静になる。
お父さん、こんな不甲斐ない娘をお許しください。
「まったく、サーシャ今度は何をするつもりなの?」
「ばぶっ」
後からやってきたのはマッシュだった。
私は両手をバタバタと殴る動作を見せる。
「これはギンジの通訳使わなくてもわかった。ボコボコにしてやるだ」
私は大きく頷く。
「ダメ。お父さんに迷惑はかけられないよ。でも、このまま大人しく帰すつもりはないよ。ギンジ頼んだよ」
『任せておけ』
ギンジはそういうとそのまま部屋の端っこを走って外へでると、あいつらが乗って来た馬車の屋根へと乗り込んでしまった。
「つーことで、あとで使いのものが家畜を三千頭迎えにくるからしっかり準備しておけよ」
「だから、王前で決まったことと違うことはできません」
「お前らの娘生まれたばかりなんだろ? 病気になった時誰が見てやれるって言うんだ? お前に治せるのか? 例えばお前みたいに急に呼吸が苦しくなる病気にかかるとかあるかもしれないだろ?」
「それは……」
私はマッシュに羽交い絞めにされていた。
まだ二足歩行もできない私だけど、なんとかお父さんを助けに行きたかった。
このまま許してやるものか。
「わかりました。今回だけ三千頭準備しますが、今後もこのようなことを言われても無理です」
「なんだ? 俺がわがまま言ってるみたいじゃねぇか。まぁ娘が生まれたから今回は見逃してやるけど、口の利き方に気をつけろよ。公爵様」
「おぎゃああああああ」
私はマッシュに抱きしめられながら大きな声で泣いてしまった。
なんで私は転生したのにこんなにも弱いのだろう。
早く色々なことができるようになって家族を守れるようにならなくちゃいけない。
悔しくて泣くのはもう今日だけだ。
この挫折を絶対に忘れない。
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