第13話 大量の家畜と無礼な男たち

「ブライアン様大変です!」

「どうした? 私は今どこから食料を引っ張ってくるか考えているんだ」


 執務室で考えてもわからないと言い、今お父さんは私たちの部屋で頭を掻きむしっていた。マーガレットとマッシュも同じ部屋でゴロゴロしている。


 今までこの二人が一緒にいることは少なかったらしいが、私が生まれてからここで過ごす時間が増えているらしい。


 前に、マーガレットは魔獣からマッシュも私のことも守ると言っていたことを考えると、まだ上手く思いを伝えられないだけで、マッシュのことが嫌いなわけではないのかもしれない。


「それが……大量の牛と豚がこちらの方へ向かっていると言う奇想天外な報告がありまして」

「冗談を言っている暇はないんだ」


「そうなんです。でも、どうやら本当らしくて。まもなく見える場所までくるそうで」

 公爵家は戦争のことを見越して、少し周りより高台に建てられていた。

 そのおかげで遠くまで見渡すことができる。


「冗談だったらただじゃおかな……本当だ。なんだあの数は?」

 マッシュが私を抱っこしながら、窓の方を見せてくれると、そこには何千匹という牛や豚がここを目指して来ていた。


「食料が向こうからやってくるなんてことが? いや、とにかく捕獲しないとダメだ。近くの牧場へ誘導できるか?」

「なんとかやってみます」


「サーシャ! もしかして君がやってくれたのか? いや、そんなことあるわけないよな」

 私は目をそらしてそのまま聞かなかったフリをする。


 やっていることはラッキーとまるで同じだけど、赤ちゃんだしきっと許してくれるだろう。

 とりあえず、これ以上何か言われるのは嫌なので思いっきりウンチを漏らしておく。


 女の子だけど、今だから許される逃げ方だ。

 お淑やかさは将来身につけることにしよう。


「むにゃー」

 ラッキーにお礼を言うと、めちゃくちゃ臭そうな顔されたが、ミルクしか飲んでいないのだからきっとまだ優しい匂いだ。

 ごめん。やっぱり臭い。


 おむつ交換をしてもらっていると、どうやら一番早い豚が到着して庭へと並び始めたようだった。それから牛も徐々に集まりだし、ベネディクト家の庭は大変なことになっていた。


「全員で捕獲するんだ」

「ブライアン様、それが捕獲されるのを待っているかのように並んでいるんです。これは神の奇跡としかいいようがありません」


「どういうことなんだ? 家畜が食べられるために来たというのか?」

「私たちには到底理解できることではないことが起こっているのだけは確かです」


 お父さんはすぐに水と餌を手配した。

 窓から外を見ると少ない侍女たちがてんやわんやに動いている。


「奇跡だ。本当に奇跡だ。こんなことが起こるなんて。いやでも、まだわからない。どこからか逃げて来た可能性もある」


「あなた、それなら家畜に番号が振ってあるはずよ」

「そっそうか。急いで確認させよう」


 お父さんが急いで確認するように指示をしていくが、所有者を示すものは何もわからなかった。


『ごしゅじん様、さすがお手柄です』

「んばっば」


 ラッキーのおかげだよと言いながら優しく撫でてあげる。

 まさか、こんな形で解決できるとは思っていなかった。


 だけど、やっぱりこのまま回復魔法協会へ渡すのは納得がいかなかった。

 国民のためと言いながらどうせ、どうせ中抜きをして利益をむさぼるに決まっているのだ。


 家畜たちの整理は夜通しかかり、ひと段落した頃には朝になっていた。

 気がつけば私は眠っていて、起きるとちょうど解散するところだった。

 私の部屋、そのまま作戦本部になっていた。


「みんなありがとう。家畜の見張り以外は交代で今日は休んでくれ」

「ブライアン様、やっかいなのが来ました」


 執事が目線を送った先には、大きな派手な馬車が向かってきているところだった。

 どれほどの贅を尽くせばあんな趣味の悪い馬車を作ることを思いつくのかわからない。


 その馬車は正面入り口の前に止まり、中から目つきの悪い太った男と、背が高くひょろっとして性格が悪そうな男二人が降りてきた。


「おい、公爵家はいつから牧場になったんだ? こんなバカみたいに集めやがって」

 男は家中に聞こえるような大声言ってきた。


 無礼にもほどがある。


 公爵家は独自の法と権限を与えられているくらい、国の中でも権力があるはずだ。

 だけど、あいつらはそれすらも無視して無礼な態度でずかずかと家の中へと入って来た。

 お父さんが急いで玄関へと向かう。


「ばぶっ」


 ラッキーが私を移動用の籠に移してそのままお父さんの後ろについていく。

 何かあれば私だってやってやる覚悟はある。

 またウンチだって漏らしてやるんだから。

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