第19話 人生で一番命の危機とモフモフ天国
うとうと……。
きもちいいな。
ぽかぽかお日様。
あったか、るんるん。
しあわせだな。
サルザスが来たあと、一度寝かしつけられた私はまだまどろみの中にいた。
はっ! ダメだ。
ついお母さんからのぬくもりの中で寝てしまっていたが、サルザスをどうにかすることを考えないといけない。
「おっ、起きたの?」
「んばっ」
私の横でマッシュが本を読んでいた。
マッシュの肩にはギンジが帰って来ていた。
『ごしゅじん様、おはようございます。今日も可愛い』
「キャッキャッ」
ラッキーが頭を降ろしてきたので両手で抱きしめて、いいこ、いいこしてあげる。
大げさとも思えるほど尻尾をぶんぶんと振って喜んでいる姿は本当に可愛い。
だけど……。
「だぁ」
ラッキーなんか焦げ臭いからマッシュお風呂入れてきて。代わりにギンジ置いていって。
『マッシュ、サーシャ様が俺を置いてラッキーさん風呂に入れろって』
『ごしゅじん様、ラッキーどんなに離れていても心は傍にいることをお忘れありませんように。何卒、ラッキーの気持ちは常に一緒にいますことを忘れずに、健やかにお過ごしください』
「んばっ」
ラッキーは扉を出るまで涙を目にいっぱい貯めて、何度もこちらを振り返りながら出ていった。まるで今生の別れような演出だ。
どうせすぐ戻ってくるのに演技派なんだよね。
「だぁ」
私はラッキーを笑顔で送ると、ギンジに何をして来たのかを聞く。
あの時、ギンジはサルザスの馬車へ乗っていったはずだ。
それが今ここに戻ってきているってことは誰かが迎えに行ったってことだ。
その誰かというのは、焦げ臭い臭いをさせたラッキーしかいない。
急に胸が締め付けられる。
ラッキーが私のために戦ってきてくれたのだ。
だけど、私はラッキーにそんな危ないことをして欲しいなんて思わない。
相手は回復魔法協会とこの世界で特に力を持っている奴らだ。
そんな奴らに狙われたりしたらと思うと、今もベッドの中で足が震えている。
仕返しは私が考えるから、ラッキーにはただ傍にいて欲しい。
『大丈夫ですよ。ラッキーさんは無傷です。ちょっと……少し……軽く……あいつらにお仕置きしただけですから』
「んば?」
ギンジにどんなお仕置きなのかを聞いたけど、しばらくはここに来れないくらいとしか教えてくれず、詳しくはラッキーに聞いて欲しいと言うばかりだった。
殺したりとか物騒なことはしていないようだけど……。
ラッキーの怪我についても何度も確認したけど、怪我はしていないらしいので、その点については安心だけど、どんな無茶をしたのか、胸が苦しくなる。
焦げた臭いについては、天候不順で雷が降った場所があってそれが身体に染み付いたんじゃないかとのことだった。
私が知っている世界では雷が降るなんてことは滅多に起こらなかったけど、そんな天変地異が起きるなんて怖い世界になっているようだ。
ギンジは私のベッドの上でちょこんと座っていたので、優しく撫でてあげるとそのままゴロンと仰向けになった。
「んば」
『俺は大丈夫ですよ。命の危険なんてまったくありませんでした。ずっとラッキーさんが守ってくれてましたからね。ラッキーさん本当に強くてカッコよくてサーシャ様のことが大好きなんですよ』
寝ながら撫でるのは難しいが、お腹辺りが気持ちいいようでギンジも目をウトウトさせ始めた。
そこへマッシュとラッキーが戻ってきた。
もうお風呂に入ったのかって思うくらい早かったけど、ラッキーからは石鹸の優しい香りがしてくる。
『なっ……ごしゅじん様、俺もお腹撫でてもらったことがないのに……どういうことですか。ギンジ、貴様裏切ったな』
『サーシャ様、今が人生で一番命の危機に陥ってます』
なんだろう。浮気しているところに彼氏が帰ってきたような修羅場の空気をラッキーがだしてきているけど、別にそんなことはない。
はぁ、もう仕方がないなっ!
「キャッキャッ」
『マッシュ、ラッキーさんに仰向けに寝てもらって。そうしないと俺が死ぬ』
ギンジに通訳してもらって、ラッキーをへそ天してもらったその上に私をうつ伏せで寝かせてもらう。
おぉ、これは気持ちがいい。
『ごしゅじん様、大好きです。僕、世界一幸せな犬になります』
『魔獣王フェンリルの威厳が……』
ラッキーが私を大好きホールドで抱きしめてきた。
ギンジが何か言ったような気がしたけど、私はモフモフに包まれたまま、また眠りについた。お母さんとはまた違った温かさと優しさに包まれながら……。
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