第28話 特別任務! 執事を探せ。

「本気なのか? こいつを倒したことをラッキーがしたことにするって?」

「あぁ、お前が狙われたことは報告した方がいいけど、壊した責任取らされるとか嫌だし」


「私も嫌よ。怒られたくないもの」

「俺はどっちでもいいけど」


 ハダスが戸惑っている中、人が駆けつけてくる前に口裏を合わせておくことになった。

 マッシュの提案ですべてはラッキーが守ってくれたことにして終わらすことにした。

 ブルパスは完全に気を失っている。


「いや、いくらあの犬が強いからって、そんなの通じるわけないだろ」

 ハダスは納得がいかないようだった。


「ハダスはバカなのね。私たちはただの子供よ。誰かが自慢するのに人前で魔法とか使わなければ魔法を使うことすら気づかれないわ」

「あっ……」


 ギルバートが何かを思い出したように話し出した。


「俺こないで親の前で魔法使った。結構本気で」

「じゃ、ギルバートとラッキーの手柄にしておきましょ。私たちは知らなかった。いいわね? それじゃ行くわよ。キャー」


 マーガレットが外に叫びながら走り出す。

 なかなかの演技派だ。

 そこへやって来た衛兵と鉢合わせする。


「変なおじさんがハダス第三王子をいきなり襲って、ギルバート第二王子とラッキーが守ってくれたんです」


「お怪我はありませんか」

「ないわ。さっさと捕まえてください」


 目を潤ませるマーガレット。

 きっとあぁいう子に男はコロっと騙されるのだろう。


 私はマッシュに抱っこされたまま成り行きを見守る。

 先ほどの騒ぎはハダスを一人にさせるための誘導だったのだろう。

 そう言えば、ハダスの執事はいったいどこへ行ったのかしら。


「だう」

 衛兵にブルパスを引き継いだラッキーが戻ってくる。


「どうしたの? ラッキーに乗るの?」

 私のジェスチャーに気がついてくれたマッシュがラッキーに乗せてくれる。


 もうどこかで執事は処分されている可能性もあるが、どうせ見つけてあげるなら早い方がいいだろう。


「だぁー」

『ごしゅじん様、今日も可愛いです』

 アホラッキーに戻ってしまったけど、ラッキーは私の意図を酌んで執事を探し始めた。


「サーシャ一人でどこへ行くの? 危ないよ」

「だっ」


「もう、カルヴィも探さないといけないのに」

 ゆっくりと家の中を歩くラッキーの後ろにハダスがついてくる。


 マッシュたちと一緒にいた方が安全かとも思ったけど、ラッキーの側が一番安全なのは間違いない。

 マッシュたちは残念ながら状況説明のために捕まってしまった。


 それを待ってからでも良かったけど、そろそろ私の眠気も限界にきていた。

 赤ちゃんの体力は無尽蔵に見えるけど、あれは限界を考えずに動いているだけで、一瞬で体力切れをおこす。特にラッキーの上なんかのモフモフがあると余計だ。

 私はラッキーに身を任せて家の中を進んでいく。


 ラッキーがやってきたのは、来賓用の部屋のすぐ横にある部屋だった。

 今日はこの部屋を使う予定はない。


「こんな部屋に用があるのか?」

「だう」


「ギルバートたちのところに戻ろう」

「ぶぅ」

「わかった。ここで遊んだらもどるからね」


 ハダスも護衛のつもりなのか一緒について来てくれている。

 あなたの執事を探しているなんて言えないし、別に言うつもりもない。


「変わったお嬢様だな」

 マッシュが扉を開けると、部屋の中央に倒れている人がいた。


 先ほどみた執事のカルヴィと同じ顔をしている。

 服は盗まれたのか、下着を残して半裸になっていた。


「カルヴィ!」

 走り出そうとするハダスをラッキーが止める。


「だぅ」

「なんだ、ブルパスの野郎一人で十分だとか言ってまだやっていなかったのか。俺が暴れちゃってもいいのかな? いいんだよな。柔らかい肉も食えるなんて今日はいい日だ」


 そこにいたのは猪の亜人だった。

 大きな牙が月夜に照らされて光る。


「やっぱり殺すなら子供に限るよな。ブルバスの奴、俺に殺させてくれるなんて気が利くじゃねぇか」

 猪の亜人が手裏剣を飛ばしてくるが、それをラッキーが尻尾で叩き落とす。


「なかなか躾のできた犬じゃねぇか。それならこれでどうだ?」

「だぁ」


『ごしゅじん様、しっかりと掴まっていてください』

 ラッキーが尻尾で風の牙を放つと、何をしようとしたのかわからないが、そのまま気絶してしまった。


 ただ気持ち悪くて話が長いだけの人だった。

 なんの見せ場もなく、登場したのに名前も名乗れず可哀想だけど、実際にそれだけの戦力差があれば仕方がない。


 それにしてもラッキーが強すぎるのか、相手が弱すぎるのかちょっとわからないけど、こんな連中を中に入れてしまう警備にも問題がありそうだ。

 あとでマッシュから言ってもらうしかない。


「カルヴィ!」

 今度こそ安全を確認してハダスが駆け寄る。

 傷はだいぶ酷いが命までは取られていないようだ。


 ただ、呼吸が荒く床に広がったようの血の量をみると、このままではそれほど長くはもたない可能性がある。


「死ぬな! お前がいなくなったら僕はどうしろって言うんだ」

 もうすでに意識が朦朧としているのか、何か口をパクパクさせているけど、聞き取ることはできない。


「頼むよ。お願いだよ。なんでこんな争いに巻き込まれなきゃいけないんだ。僕は別に王になんてなりたくない。ただ、カルヴィと一緒に田舎でゆっくり過ごせればそれで満足なのに」

「だぁ」


 なんと、ここにも田舎でスローライフを目指す若者がいた。

 執事と一緒にスローライフか。それも悪くない夢だ。


 人生はまだ長いのだから、その夢を諦めるにはまだ早い。

 そしてできれば、物々交換要員として育って欲しい。


 一緒にスローライフとかしたくないけどさ。

 何かあった時に助け合えるスローライフ要員はいてもいいと思うんだ。

 私はドレスの中から一本の回復薬の小瓶を取り出すと、ハダスへと放り投げた。


「これは?」

「キャッキャッ」


 あれは私がマッシュに言って作ってもらった下位回復薬だ。


「僕が飲むのか」

「だっ」


 アホの子がここにいたと思ったけど、ゆっくり首を振る。あっそろそろ眠気が強くなってきている。


「飲ませろってことか?」

 私は小さく頷く。もうそろそろ限界だ……。


 疑いながらもハダスがカルヴィへ回復薬を飲ませると、カルヴィの傷は消え、すぐに呼吸も安定してきた。出血は止まっているから、上手くすれば障害も残らずに回復するだろう。


「だぅ」

 あとはラッキーにお願いして、私はそこで意識を手放した。


 うーん。やっぱりこのモフモフは世界で最高だ。

 こんなに気持ちになれる私はなんて幸せものだろう。


「だぅだぅ」

 ラッキー、いつも守ってくれてありがとうね。

 優しい太陽の光に包まれた、そんな気持ち良さの中私は眠りについた。

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