第25話 子供は大人が思うよりすぐに仲良くなれるよね

「私は火の鳥ね」

「僕は木人形」

「俺は氷兎」


 毛玉を発見した日から毎日魔法の練習をした結果、今私の部屋は大変賑やかなことになっていた。

 みんなで魔法を動物の形にして遊んでいるのだ。


 私にはまだ魔法は使えないけど、私の魔法から生まれた精霊の卵は今私の近くをプカプカと浮かんでいる。周りの人に聞いてもよくわからなかったけど、たまに明るく輝いていることがあるので、きっと光の精霊じゃないのかと勝手に思っている。


 お腹の中ではラッキーの魔力がグルグルと回っている感じがあって、そこに自分の魔力を混ぜていくと、すごく温かくなって気持ちがいい。


 それになんの意味があるかわからないけど、この子はよく混ざった魔力が好きなようで、たまに魔力が欲しくなると、私のお腹の上に来て勝手に魔力を吸い取っていく。


 私から魔力が抜けていく感覚があるから、きっとそれが栄養になっているのだと思う。

 私はこの子のことをアルフと名付けた。


 名前をつけてあげたら、より存在感が増したような気がするんだけど、周りの人にはアルフのことが見えないらしくて残念だ。


 私の当初の目的、光の盾はアルフが使えるようで、私が願うと目の前に一瞬盾が生まれるようになった。

 だけど、想像していたものとは違って、その盾は卵の殻のように薄くて簡単に割れてしまう。


 まだまだ成長段階ではあるけど、今までできなかったことができるようになるのは凄く楽しくて、毎日アルフにお願いして光の盾をだしたりしまったりして遊んでいる。


 ラッキーは私が光の盾をだすと、それをいとも簡単に割ってしまうので、部屋のいたるどころに出してあげることで、ラッキーにもいい運動になっているようだ。


 ちなみに私は、やっと寝返りがうてるようになった。

 お父さんとお母さんは毎日寝返りを見に来て喜んでくれるから、私もつい調子に乗ってゴロゴロと転がっている。


 寝台から転げ落ちそうになると、いつもラッキーが支えてくれて真ん中戻される


 アルフは言葉を話せないみたいだけど、すごく心配性らしい。

 いつも私のすぐ近くをいつも飛んで落ちないか気にかけている。

 ベッドの淵までいくとすごく慌てて動いているのがめちゃくちゃ可愛いんだ。


 さすがに私もラッキーが見てくれていないところでは無茶はしないけどね。


 残念ながらアルフの姿はマッシュたちには見えないようで一緒に遊んでくれないけど、毛玉たちとはお互い見えるようで少しだけ交流があるようだった。


 そうそう、毛玉たちと言えば最近ギルバートの周りの毛玉の数が増えている。

 もちろん、マッシュとマーガレットも。


 きっと魔力量に関係しているような気がするんだけど、詳しいことは聞いても教えてくれなかった。なんというか毛玉たちではしっかり会話しているくせにこちらが質問しても答えてくれない。


 ラッキーには見えていたらしいけど、元々そんなものらしいので気にしないようにしている。


「行け、火の鳥!」

「負けるな木人形!」

「上手く立ち回れ氷兎!」


 ギルバートたちは小さく作った人形たちでお互いに戦わせて遊んでいる。

 魔物を模った物や、兵士など思いつくままに作っているが、だいたい戦い終わる前にマッシュの魔力切れで敗北することになる。


 私の前世ではこんな風に魔法で遊んでいることもなかったので、貴族の子供は随分発展した遊びをしているらしい。


 そりゃ魔法の上達も早くなるはずだ。

 私はというと……アルフを呼び出してからというもの、まともに魔法を使えていない。


 アルフにお願いしてでるのは光の盾だけだし、もう一度精霊が生み出せるかと思ったんだけど、そんなぽんぽんと出せるものではなかった。

 なにかこう掴めそうな気もするんだけど、やっぱりある程度年齢を重ねないとダメなのかもしれない。


「あぁーまた負けた! くそっーどうやれば魔力を維持できるようになるんだよ」

「マッシュは数を増やしすぎるのと、細かく作り過ぎなのよ。なんで木人形に翼やカッコイイ剣が必要なのよ」


「お姉ちゃんこそそのアホウドリみたいなのどうにかしたらいいじゃないか。それに芸術は細部に宿るっていうでしょ」


 いつものようにマッシュとマーガレットが喧嘩をし始め、そこにギルバートが止めに入る。いつの間にか二人は喧嘩できるくらい仲良くなっていて、私はそのことがすごく嬉しかった。


「まぁまぁ二人とも」

「ギルのくせに生意気よ」


「ギルバートは黙ってて!」

「こういうときだけ意気投合するぅ!」


 喧嘩するほど仲がいいって言うけど、ちょっと前までマーガレットとマッシュはまともに会話すらしなかった。


 それがギルバートが遊びにくるようになって、一緒に遊ぶことで少しずつ交流が生まれている。

 とてもいい傾向だと思う。


 口では文句を言いながらも、お互いに楽しく遊んだ記憶というのは将来まで残るものだ。


「そういえばサーシャさんのお披露目会はどうするんだ?」

「あぁー来月やるって言ってたよ。だけど、お父さんが、自分の体調があまりすぐれないからあまり大規模にはやらないって」


「ブライアン公爵そんなに体調悪いの?」

「いや、サーシャが生まれてからかなり元気にはなってるみたいなんだけど、何か隠してるようなのよね。マッシュ何か知らない?」


「そういえば元気だよね。こないだ、サーシャよりも先に歩くんだって言って歩く練習したたのは僕もビックリしたけど、何があったんだろうね? 僕もわからないな」


「マッシュ、そう言えばってあなたね。いくら若いとは言っても次期当主はあなたなのよ。少しは自覚持ちなさいよ」

「大丈夫だよ。お父さんはもうなお……。最近やたら元気だし」


 マーガレットが少しイライラしてきているのが伝わってくるけど、マッシュは私が治したとも言わず庇ってくれた。

 いつかはマーガレットにも回復薬のことを話さないといけないと思っている。


 だけど、まだ私が上手く話せない以上きっとマッシュから説明を受けても信じてくれない可能性もある。

 少しだけ嘘をついているようで罪悪感がある。


 お姉ちゃん、いつかはちゃんと説明するからねと、心の中で約束する。

 それにしても、お父さんが体調悪かったなんて全然気がつかなかった。


 特に病気のような症状はでていない。

 顔色も呼吸の状態も、抱っこしてくれた時に見ているけど、異常のようなものはなかった。


 もしかしたら、ずっと病気だったことでメンタル的に少しきているのかもしれない。


 死の淵までいくような病気がいきなり治ったといっても、本人も信じられないかもしれないし、薬のことはマッシュと私の秘密になっているから、ある日いきなり病気が治ったなんてなっても信じられないのかもしれない。


 それなら、今度マッシュに言って滋養強壮いい薬でも作ってあげよう。体力がつけば、段々と気分も変わってくるかもしれない。


 ただ、材料が手に入るかが問題なんだけど……。

 あぁー早く私の畑を作りたい。そしたら、色々と面白い薬も作れるんだけどな。


「そのお披露目会って俺も呼んでもらえるのかな?」

「ギルバートは無理じゃない?」


「第二王子だしな」

「お前らの中で第二王子ってどんだけ下に見てるんだよ! そこそこ偉いんだからな!」


「えっそうなの? マッシュ、子供の遊びに権力持ち出されると悲しくなるわよね」

「本当に、俺たち親友だと思っていたのに、結局権力なのか」


「いや、違うんだ。ただ呼んで欲しいだけなんだ。お願いします」

「まぁ、そこまで言うならお父さんに言っておいてあげてもいいけど、どうするマッシュ?」


「そうだね。まぁサーシャの今後を考えれば第二王子でもコネとしていた方がいいんじゃない?」

「マッシュは優しいわね」


「お前ら、前まで仲悪かったよな? なんでこういう時だけ協力するんだよ」

「えっ? ギル来たくないの?」

「ぜひ、お呼びください」


 私の記憶が正しければ、マーガレットもマッシュもすでにお父様にギルバートも呼ぶと伝えていたはずだ。

 あんないじわる言わなくてもいいのに。そろそろダカルト陛下経由でギルバートへの誘いの手紙が届くはずだ。二人とも本当に悪ノリが好きなんだから。


 私はゴロゴロと寝台の上を転がりながら、そんな三人を眺めていた。

 私もお披露目会までにはハイハイできるくらいまで成長しておきたい。


 貴族のパーティーなんて絶対、退屈に決まっている。

 ラッキーがパーティーに参加できないことを見越して、なんとかハイハイで脱出を試みるのだ。


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