第26話 お披露目会は目が回る忙しさ
オレンジ色の大きな花が太陽に向かって咲く頃、私はハイハイができるようになり、そしてお披露目会当日を迎えることになった。
成長速度としてはかなり早いと言われたけど、毎日目的意識を持って動いているのだ。
そう簡単に他の赤ちゃんに負けはしないのだ。
お父さんが来賓の数を減らすと言っていたけど、当日ベネディクト公爵家の家の周りは馬車だらけになっていた。
噂だと隣国の公爵家夫妻と王子が参加するとかで、かなり警備が厳重になっているようだ。
私はと言うと、ここ数日お披露目会のために何着もドレスを着させられたりしてすでにぐったりしていた。
お父さんが回復したことと、ラッキーが連れて来た家畜のおかげで少しだけ財政状況が改善したとかで、私のドレスを準備したのだ。
どうせすぐに大きくなるんだから、そのお金をもっと他に使えと言いたかったけど、マッシュは両親がとても楽しそうだからという理由で却下された。
まぁ子供の服を着飾るのなんて結局本人よりも周りの大人のためなのはわかるんだけど、どうしても過去の貧乏性がでてしまって、気を使ってしまう。
「だうぅ」
『ごしゅじん様、とっても可愛いです。今日も天使ですか?』
「あうぅ」
ラッキーは今日も平常運転でアホ犬になっている。
天使なんてワードもお父さんがずっとうちの天使がとか言っているのが悪い。
将来友達から天使ちゃんとかあだ名つけられたら、一生口をきいてあげない自信がある。
私のお披露目会はこれで控えめって、盛大にやったらどれだけやるんだよって思うような規模で行われた。
貴族社会は血縁や紹介が重要だって聞いたことはあったけど、まさかこんなに親戚がいるとは思っていなかった。
きっと、あっちを呼ぶと今度はこっちもとか色々難しい調整があったのだろうと思うけど、知らないおじさんとおばさんたちに代わるがわる抱っこされ続けると段々と目が回ってくる。
「とっても可愛いわね」
「お母さんも美人だったけど、この子はさらに美しくなりますね」
「なんて聡明そうな子なのかしら」
「まぁ、こんなに可愛い子見たことないわ」
「千年に1人の可愛さね」
「幸運になる顔しているわ」
「この子は間違いなく幸せになるわ」
「美人になる子って産まれた瞬間から美人なのね」
「さすがベネディクト夫妻の子ね」
「もう、可愛すぎて誘拐されないか心配だわ」
できるだけ笑顔で人見知りせず……めちゃくちゃ疲れる。
泣いて騒いでウンチでも漏らして退場しようかと思ったけど、さすがに親の顔にウンチ……泥を塗るわけにはいかないとかなり頑張った。
「だう、だう」
途中でマッシュとマーガレットが私をエントランスへと連れ出してくれ、ラッキーのモフモフの中へダイブさせてくれた。
ラッキーは特別に私のお守りとして参加させてもらっているけど、ギンジはマッシュの部屋で留守番をしている。家族はマッシュがギンジと会話することに慣れてきているけど、家族以外からはまた変な目で見られることを気にしてだ。
「だぁー」
「サーシャも疲れたでしょ。もう挨拶も終わりよ。泣かずに頑張ったわね」
「さすがサーシャ。僕の時はかなり駄々をこねて大変だったらしいよ」
持つべきものは優しい姉と兄だ。
私たちが休んでいると、そこへギルバートが同じくらいの男の子を連れてやってきた。
あまりこの辺りでは見たことのない服装をしている。
「サーシャさん、お疲れ様でした」
「だぁう」
「こちら、俺の友人を紹介させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「んばっ」
「こちら、隣国の第三王子ハダスです」
「だっ」
思わずこいつ、何を言ってるんだと思ってしまった。
勝手に第三王子とか連れてくるな。
「初めまして、マーガレット・ベネディクトです。そしてこちらが私の弟のマッシュ・ベネディクトとその妹のサーシャ・ベネディクトです」
「これはご丁寧にありがとうございます。なんだ、ギルバートの紹介と全然違うじゃないか」
「バカ、余計なこと言うな」
「マーガレットさんはもっと凶暴だって聞いていたのに、まったくおおげさなんだから」
「ギル、あとでちょっと私の紹介の仕方についてお話しましょうか」
「ハダス、お前のこと許さないからな。この後俺がどれだけ怖い目にあうのか、お前にはわかるまい」
「そんなこと言うなよ。これから一緒に生活するんだから」
「どういうことですか? もしかして二人は許嫁とか? どちらが受けで……」
「マーガレットさんは面白いですね。でも残念ながらすでにギルバートの心を奪った人がいるようなので、僕はその相手ではありませんよ。ただ、ちょっと自国での争いに疲れてしまって、しばらくこっちへ逃げてくることになったんです」
「隣国ってもしかして、花と水の都アンラ王国ですか? 王様がご病気とかで……」
「そうなんですよ。今日も叔父たち公爵夫妻に連れてきてもらっているんです。もう、内部崩壊しそうなくらい兄たちが揉めに揉めて。僕はそこまで王になることに興味がないのでギルのところへ転がりこんだわけです。これで、王位継承とは無縁になれると思うと嬉しくて」
「こいつも俺も兄たちでは苦労しているから意気投合して、いつか俺たちだけの庭を作ろうって話をしてたんだ。国作ると確実に揉めるから庭な」
ギルバートは何かやりたいことができたのか、最近は第二王子をネタにしていて、昔ほど兄と比べられることや王位継承権について気にしていないようだった。
やっぱり好きなこと見つけるといいよね。
私も早く自分の畑を持って好きな植物に囲まれた生活を送るのだ。
ハダスの自己紹介が終わった頃、なにやら外が騒がしくなってきた。
誰かが叫んでいる声が聞こえる。
「どうしたんだろ?」
「ちょっと行ってみようぜ」
『ごしゅじん様、賊が侵入したようです』
「だう?」
これだけ警備が厳重な時に賊が?
なぜか胸騒ぎがする。
―――――——―――――――———————
【あなたへのお願い】
作品を読んで『面白かった!』『更新はよ』と思われた方は、作品フォローや下にある❤で応援して頂けると、すごく励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます