第24話 無邪気に使った力は王様にも予想外の結果を招いた
王様目線
「最近、ギルバートの様子はどうなんだ?」
「はっ、最近はベネディクト公爵家へ毎日のように遊びに行かれており、まったく勉強も習い事もしておりません。王候補である自覚もなければ、努力不足も甚だしいです」
「それは困ったな。少し息抜きのつもりで連れていったのだが……。わかった。私からギルバートへ話してみよう。呼んできなさい」
「承知致しました」
ギルバートの兄のガウェインはまさに王の器だった。
一つのことを聞いて十を知るような頭の回転の速さ。
他に類を見ない剣術に魔法。
私自身の子でありながら将来が怖くなるくらい優秀だ。
ギルバートはそんな兄に追いつきたくて頑張っている。
私はそんなギルバートを認めているし、今後も努力をして欲しいと思っている。
だが、人生において絶対に勝てない相手というのもいる。
こんなことをギルバートには言えないが、それがギルバートにとってガウェインなのだ。
それを今伝えてしまっては、ギルバートのやる気を削いでしまう。
なんとか、そうならないように周りにも配慮をしてもらいたいが、跡継ぎであるガウェインに媚びを売る人間が多いのも事実だ。
どちらに目をかけてもらうかで、今後の出世、そして一生の収入が変わることを考えれば当たり前だろう。
「失礼します」
「入れ」
ギルバートに会うのはベネディクト公爵家へ一緒に行ってから会ってはいなかったが、ギルバートが入ると部屋の中の空気が一気に明るくなる。
なぜだろう。こんな小さな子供なのに歴戦の猛者のような余裕を感じる。
「最近どうだ?」
「ベネディクト公爵家へ毎日のように学びに行っています」
「執事が言っていたぞ。最近まったく学び事にも身が入っていないらしいじゃないか。そんなんだとベネディクト公爵家へ行くことも禁止せざるおえなくなるぞ」
「なるほど。お父様は私の話は聞かずに、一方的に執事からの情報だけで判断されるんですね」
「そんなことはない。なにか言い訳があるなら聞こう」
「わかりました。まずは俺の魔法を見て頂きたいです。ただ、ここを壊してしまっては問題になりますので、中庭へ行きましょう」
いったい何があったというのだろう。
ギルバートと会わなかったのはひと月くらいだ。
それが今のギルバートの自信はどこから来ているのだろう。
ダメだ。いったい私は何を考えているのだ。
相手はただの6歳の子供だ。
多少変わったとしても、そんなに大きくは変わらない。
そう、適当に褒めてやればいいのだ。
大げさに中庭にとか言っているが、きっとたいしたことはない。
私たちが中庭にでると、なにが始まるのかと従者たちが集まって来た。
あまりギルバートに恥をかかせたくはないが、それでも挫折を知るのは早い方がいい。
早く折れた方が立ち直りも努力もより頑張れるというものだ。
「わざわざ中庭まで連れてきていったい何を見せてくれるんだ? アイスブレイクか?」
「アイスブレイクが見たいんですか? それでもいいですよ」
少し挑発するようないい方にイラっとしてしまった。
だけど、先にギルバートの話を聞かずに叱責したのは私の方なのだから、この生意気な態度にも目を瞑ろう。
「いや、ギルバートの本気を見せてみなさい」
「わかりました」
ギルバートが魔法を唱えると、辺りの空気が震え、森からは鳥たちが飛び立っていく。
「いや、やっぱり加減をした方がいいかもしれない」
「そうですね。それじゃ少しだけにしておきますね。我に従い姿を表せアイスタイガー」
ギルバートの声と共に現れたのは繊細な彫刻で彫られたような氷の虎だった。
『ガルルルル!』
その声はまるで本物のようで、幾多の戦場を戦ってきた私の足を震わせる。
なんだこの魔法は!?
今までうちに勤めていた歴代の魔法使いだってこんな芸術作品のようなアイスタイガーを創造した者はいなかった。
ダメだ。ここで子供に弱みを見せるわけにはいかない。
「空へ。お前の力を見せろ!」
アイスタイガーの咆哮と共に大きな氷に塊が吐き出され、空の彼方へと消えていった。
「なっ……なにをしたんだ!」
「ベネディクト公爵家で学んできたことを実践しただけですよ? お父様がおしゃる通り、俺にはまだまだ力不足です。この子を維持する魔力もありません。だけど、俺は兄のスペアとしてここでいるより成長している実感があるんです」
目の前にいたアイスタイガーは音もなく霧散していった。
アイスタイガーは氷系魔法の最上級魔法の一つだ。
そんなものを使いこなせるのは大人でもそうそういない。
しかも維持する魔力とは何を言っているのだろう。
あんな魔法は一発放つだけで戦争を逆転できるだけの力があるのだ。連発するような魔法ではない。
いったいベネディクト公爵家で何を学んできているというのだ。
「お前の成長しているのは良くわかった。よく頑張っているな」
平常心だ。平常心を保たなければならない。
それよりも、執事たちはこの子の何を見てきて「努力不足も甚だしいです」と報告してきたのだろうか。
ここにいるのは戦争を終わらせるだけの力を持った才能の塊なのだ。
私を含め、この子は第二王子として、王子のスペアだとしか見ていなかった。
だけど、実際はどうだろう。
この子の才能を封じ込めていたのは誰だったのか。
「お父さん、俺は俺の進む道を生きたいです。兄が王になる邪魔はしません。だからベネディクト公爵家で今だけでも学ばせてください」
「あぁ、もちろんだ。私も従者たちも色々誤解していたようだ。これからも行っていい」
「やったー。約束ですよ」
後でブライアンへ直接聞くしかない。
だが、ブライアンもそこまで魔法に詳しくはなかったはずだ。
例え詳しかったとしても一カ月くらいでこれだけ成長させることはできないはずだ。
あの家で何が起こっているのかわからないが、慎重に調査する必要がある。
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