第23話 魔獣王フェンリルに魔力を流してもらう0歳児

 適性を知る方法は簡単だった。すでに魔法を習得した人間が魔力を渡すことで、その人間の身体の中に入った魔力を顕在化させることができる。


「それじゃ右手の平を上にして。マッシュから魔力を流すよ」

「お願い」


 ギルバートがマッシュに魔力を流すと手の上に小さな種ができ、芽が出て来た。


「おめでとう。マッシュは木の魔法だよ。木のように真っすぐで暑い日には誰かのために木陰を作り、風が強い日には風から守れる地に根を張った性格の人が多いらしい。自然と周りに人が集まる人が多いんだって」


「そうなのか。そんな人間になれるように頑張るよ」

「次はマーガレットだ」

「お願い」


 マーガレットが右手の平を上にして先ほどのマッシュと同じ格好をとる。

 手の平に現れたのは炎が出現し、その周りを風が回っている。


「すごい。2属性だ。世界に名前を残した魔法使いはみんな2属性以上の力を持っていたんだよ。炎は強い意思、風は自由を表しているんだ。この二つを持っている人は人生を切り開いて人生を謳歌している人に多いんだ。だけど、注意しなければいけないのは炎が強すぎると周りとの軋轢を生みやすくなる。特に……炎は僕とマッシュとの相性は良くない。その代わり風はマッシュとは最高の相棒になれるから、これから次第かな」


「ギルって無駄に知識多いのね」

「うん。つい最近までなんでかわからないんだけど、生きている価値がわからないからずっと知識を詰め込んでいたんだ。だけど、もうどうでも良くなったけどね」


「ギルは変な奴ね」

「間違いない」


「もう、二人とも酷いな」

 ギルバートがここに来た時にまとっていたギスギスした空気とは全然変わっていた。


「それじゃ、まずはさっき感じた魔力を体内で錬成するところからだよ。魔力を感じる?」

「いや」

「私もないわ」


 二人とも何も感じないようだった。


『やっぱり声が届かないみたい』

『どうしよう』


『あっ私たちが直接教えればいいんだよ』

『そうだ。そうしよう』


 白い綿毛たちはマッシュとマーガレットの頭の上にちょこんと乗る。


「あっ何かわかってきたかも」

「私も。これが魔力なのか」


 二人は何かきっかを掴んだようだ。

 前世の時にはまったく感じたこともなかったけど、魔法を覚える時というのはこうやって目には見えない何かの手伝いをしてもらって覚えていたのかもしれない。


 そう考えると急に面白くなってきた。

 前世でも色々学んできたけど、私にはまだまだ知らないことの方が多いのだ。


 私も魔法を使ってみたいけど、さすがにギルバートが私に魔力を流してくれたりはしない。

 せめて感覚だけでもいいんだけどな。


「だぅ」

『ごしゅじん様、さすがにそれは……』


「だぁーだ」

 ラッキーなら私に魔力を流してくれるに決まっている。


『少しだけですよ』

「キャッキャッ」


 私も寝ながら右手の平を天井へと向ける。

 身体の中にラッキーの魔力が流れ込んでくるのがわかる。


 すごく温かい。

 ラッキーが私を抱きしめてくれているような、とても心地よい感じ。


 私の右手からでてきたのは小さな光だった。

 その光はとても不安そうに動いている。


「だぁだぶぅ」

 両手で優しく包んであげると、安心したのか私の周りを飛び跳ねだした。


『初めて見た』

『すごいね』


『精霊の卵を生み出す人間がいるんだね』

『世界が変わるかもしれないね』


 毛玉たちが色々言っているけど、精霊の卵? この光が?


「だぅ?」

『ごしゅじん様、私も初めてみましたが森の中の魔力が濃い場所でたまに見かけたことがあります。森で生まれた精霊は森を守ります。ごしゅじん様から生まれた精霊はごしゅじん様を守ってくれるかと……』


「ばぶ」


 ラッキーがいつものアホモードではなくて、結構話してくれて嬉しい。

 アホっぽいのも好きだけど、こうやって教えてくれる賢いラッキーも素敵だ。


 私の意思が伝わったのか、ラッキーが尻尾を左右に派手に振る。

 喜んでくれているみたいで嬉しい。


 結局私の魔力がなんの魔力なのかはわからなかったけど、私の中にも魔力がわかることがわかったし、ラッキーからもらった温かいものが身体の中に残っている。


 きっとこれを育てていけばきっと大きくなるに違いない。

 白い綿毛たちは、マッシュとマーガレットの頭の上にも住み着いてしまったようだった。


 魔法の練習を始めるとひょこっと頭の上にでてくる。

 普段はどこかに隠れているようだ。


 私は、みんなの魔法の練習を聞きながら目を閉じる。

 すごく……疲れた……。ラッキーの魔力は私を優しく包み込み。


 今まで以上に守られていることを実感できるようになった。

 そういえば、結局あの綿毛はなんだたのだろう……。いつかきっとわかるかもしれないと思いながら私はそのまま眠りについた。


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