第22話 白い綿毛と黒い綿毛

 ギルバートに会った日から私はちょっと思ったことがあった。


 あの日ラッキーがマッシュや私たちを守ってくれたけど、もし当たり所が悪ければ大惨事になっていたのではないかと。


 あの時は冷静に考えられていなかったけど、ラッキーだから無傷だっただけで、マッシュに当たっていたら……。


 少し時間を置いてから考えればわかることっていうのは結構ある。

 その場で冷静に判断できればいいんだけどね。


 なかなか上手く行かないことは多い。

 そこで思ったのだ。


 せっかく転生したのだから、今回、私も魔法を使えるようなりたい。

 前世で私は魔法への適性があまりなかった。


 回復魔法を使えるようになりたかったけど、私が使えるようになったのは生活魔法くらいまでだった。


 ラッキーはたまにアホみたいな顔して笑わせてくれて、いつも『ごしゅじん様』って言って慕って守ってくれているけど、いつまでも一緒にいられるとは限られないし、守られるだけの女性になるのは嫌なのだ。


 せめて、自分で自分を守られるようにしなくちゃいけない。

 ということで、魔法の練習をしたいとマッシュに伝えたんだけど、マッシュも魔法はあまり得意じゃないらしい。


 むしろ貴族の中でも6歳で魔法を習得しているギルバートが特殊らしく、多くは8歳頃から魔法を学んでいくのは平民も貴族も変わらないらしい。


 だけど、子供が『光の盾!』みたいにできたらカッコイイと思うんだよな。

 それに将来田舎へ行く身としては、最低限の自衛手段は手に入れておきたいところではある。


 マッシュが言うには、魔法は特に使い方を間違えると事故へと繋がるから、もう少し大きくなったら剣と魔法の先生をつけてもらうしか方法はないとのことだった。


 たしかにこないだみたいに子供が氷の刃とかふざけて飛ばしてきたら、シャレにならない事故にだって起こりかねない。

 魔法の練習は諦めて、まずは寝返りから練習することにする。


 これが意外と難しい。身体に力が入らないので、手足をバタバタさせて少しでも動けるように日々筋トレをしている。

 そんなことをしていると扉がノックされる。


「失礼します。ギルバート様がお見えになりました」

「帰ってもらっていいよ」


「マッシュ、遊びにきたよ」

「第二王子、お帰りはあちらの扉です」


「おぉ、すまないね。って今来たばかりだから」


 最近、なぜかギルバートがちょくちょく一人で遊びにくるようになった。


 あの魔法を使った翌日、前日に暴れたことをマーガレット、マッシュ、私、ラッキー、ギンジにまで手土産を持って謝りに来た。


 マッシュは別に気にしていないとその謝罪を受け入れ、一件落着となったんだけど、それからほぼ毎日私の部屋に遊びに来ている。


 このやり取りも最早ネタと言っても過言ではないくらい言われている。

 お母さんは、そろそろ動けるようになったからと寝る時以外は部屋を移動し、昼間は兄弟とギルバートが私の面倒を見てくれて、夜になると乳母が面倒をみてくれた。


 最初こそ、扱いにくい奴だと思っていたギルバートは、あの日以来人が変わったかのように優しくなった。

 頭でも打ったのかと思ったけど、そうでもないらしい。


「ギルバート」

「なんだマッシュ」


「なんで毎日うちに来てるの?」

「そりゃ決まってるだろ。親友のお前に会いにだよ」


「手」

「ん?」


「じゃあなんでずっとサーシャの手を握ってるんだよ」

「なんか落ち着くんだよ」


「俺の妹に手をだしたら第二王子だろうとただじゃおかないからな」

『ごしゅじん様、とりあえず始末しときますか? 一言ヤレと言って頂ければ……』

「だぁ」


 まったく別に赤ちゃんと手を繋いだくらいで騒ぐようなことじゃない。

 マッシュとラッキーは少し過保護すぎる。


 マーガレットはいつもこの部屋に来て、本を読みながら時々私たちを観察しているような目で見ているが、きっと考え過ぎだろう。


「そういえば、ギルバート一つ聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ? なんでも聞いてくれ」


「魔法をそんなに早くどうやって覚えたんだ?」

「魔法は、8歳になるまで待った方がいいんじゃないか? そんなに早く覚える必要はないと思うよ」


「だけど、お前からの魔法の攻撃が防げたほうがいいでしょ?」

「あれは本当にすまなかったと思う。でも、マッシュの言うことも一理あるな。もう俺は二度とお前たちを攻撃したりはしないけど、守れる力はちゃんと持っていた方がいいか。だけど一つだけ約束して欲しい」


「何を?」

「人を傷つけるような使い方はしないとサーシャに誓ってくれ」


「おぎゃ?」

 えっ私に誓うの?


「いいよ。サーシャに誓う。むしろギルバートからサーシャを守るために使う」

「わかった。それなら特別に教えてやる」

「ふにゅ」


 それでも教えてくれるのは嬉しいけど、まったく二人してなに冗談を言ってるのだろう。


「これが見えるか?」

 ギルバートの人差し指を一本立たせると、そこの上に白い何かが集まっていく。


「何も見えないな」


『くすくす』

『あのギルバートが人に教えるんだって』


『本当にできるのかな?』

『できるわけないよ』


『そんなことわからないわよ』

『自分が特別なの忘れてる』


『ギルは心入れ替えたんだから、いじめちゃダメだよ』

『また孤独に戻るんだね』

『王は孤独が一番だね』


 どこからか声が聞こえると思っていると、空中に2つの白い綿毛と沢山の黒い綿毛が飛んでいるのが見えた。


 ギルバートの周りに飛んでいる白い綿毛がフォローしようとしているけど、黒い綿毛の言っている悪口を止められそうにない。


「だぁ」

『うわぁー』


 ラッキーが尻尾を振ると私の周りに黒い綿毛が飛んできたのでそのままキャッチする。

「だぁあ」

 そんな酷いこと言っちゃダメだよ。ギルバートは心を入れ替えたんだから。


『お前、俺たちが見えるのか?』

「あうぅ」


 マッシュはこれが見えないのだろうか?

 黒綿毛を振り回してみるけど、マッシュには見えていないようだった。


『見えるって』

『すごい』


『王の器だね』

『まさかこんな所にいるなんて』


 私が握った黒地綿毛は白い綿毛へと変わってしまう。

 汚れていたのだろうか?

 それなら全部掃除してしまおう。


「だぅ」


 ラッキーが尻尾を振ってギルバートの周りにいた綿毛を全部私の方へと送ってくれるので、キレイに掃除して戻してやる。


『ギルバートならできる』

『ギルバート最高』


『ギルバートカッコイイ』

『ギルバート天才』


『ねぇ私たちも手伝おう』

『そうだ』


『みんなで教えればすぐだよ』

『だねー!』


 黒綿毛から白い綿毛に変わると、みんなでマッシュの周りに集まり応援し始めた。

 それをきっかけに、私の周りやマーガレットの周りに集まって勝手に魔法を教え始める。


「ギルバート様、私も急に魔法を覚えたくなったんですけど一緒にいいですか?」

「マーガレットさん、ここでは敬語は必要ありません。それと俺のことは気軽にギルと呼んでください」


「わかったわ。ギル、私に教えなさい」

「仰せのままに」

 マーガレットお姉ちゃんの適応力がすごすぎるけど、年齢的にはギルバートと同学年のはずだ。

 三人は仲良く自分の適性を知るところからスタートした。


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