第36話 白いきれいな狐との再会

 彩とりどりの花の絨毯が一面に広がっていた。

 赤、黄色、緑、ピンク、青、紫……。


 なんて表現したらわからないような素敵な色まで様々な花が見渡す限り広がっていて、そこの中心に大きな狐の石像が立っていた。


 狐は空を眺めながら吠えるように、悲しそうな表情を浮かべていた。

 ハッピー、ごめんね。

 ラッキーが近くまで駆け寄ってくれると、かなり大きいことがわかる。


「サーシャ、すごいだろ? あっみんなで花でも摘んで戻らない? 誰が一番素敵な花束作れるか勝負しよ。サーシャはラッキーと共にこの石像のところで待ってて」

「いいわね。絶対に負けないわ」


「俺だって」

「サーシャ様への最高の花束を準備してきます」


 マッシュが気を使ってくれたおかげで、それぞれが花畑の中へと消えていった。

 私は優しくハッピーを抱きしめる。

 きっと沢山傷ついて、周りも傷つけてしまったのだろう。


「だう」

 ごめんね。いっぱい守ってくれてありがとうね。

 私の頬から一粒の涙が落ち、石像へと当たる。


『ご主人様の匂いがする』

 ん? ラッキー?

 いや、言い方がラッキーの言い方とは違う。

 ハッピーの石像から少しずつ石が剥がれていく。


『ご主人様だ! ご主人様! いや……そんなわけない。ご主人様は死んだんだ。目の前で。さては、ご主人様の偽物だな。ご主人様を語るなんて許さない』

 石像から石が剥がれるとそこには九本の尻尾がある真っ白狐が姿を表した。


「ハッピッ!」

『その名前で呼ぶな偽物』

 ハッピーが尻尾を振ると、私の目の前に大きな火の玉が襲い掛かってきた。


『バカ狐。寝過ぎて寝ぼけたのか?』

 ラッキーが私の目の前に飛び出すと、その火の玉を上空へと弾き飛ばし、空の上で爆発した。爆風が花びらを巻き上げる。


『役立たずの駄犬じゃないか。そんな偽物を連れて来てどうするつもりだ』

『ごしゅじん様は本物だ』


『ご主人様もういない。あの日、私の目の前でどんどん冷たくなっていったんだ』

 先ほどよりも大きな火の玉が複数ラッキーへと襲い掛かる。

 ラッキーは私を守りながら、器用に避けるが花畑が段々と荒れ地へと変わっていく。


『ごしゅじん様は転生されたんだ。この世界を救うために』

『嘘だ、嘘だ、嘘だ!』

「だあぅ」


 そうだった。ハッピーと出会った時もこの子は傷ついて怯えて震えていた。

 ふふっハッピー大丈夫だよ。怖くない。

 ちゃんと見て。私は今ここにいる。

 前世ではごめんね。ちゃんと守られてあげられなくてごめんね。


『本当に? 本当にご主人様なの?』

「だぅ」


『ごめんなさい。助けてあげられなくて』

「あーとー」


 一生懸命守ろうとしてくれてありがとう。

 私は大きくなったハッピーの鼻の頭を優しく撫でてあげる。

 少し湿った鼻をパチパチと叩いてやる。


 ハッピーの身体が徐々に小さくなっていった。

 ハッピーも身体の大きさを変化させられるようだ。

 ハッピーはラッキーよりもさらに小さく、私と同じくらいの大きさへとなってしまった。


『ご主人様、今世では必ずあなたをお守りします』

『ふん。今まで寝ていた狐にどこまでできるのか見ものだな』


『決着つけるか駄犬』

「まーまー」

 二人とも喧嘩しないの。


『はい、ごしゅじん様』

『なんだその切り替えの早さ』

 ラッキーがいつものアホ犬に戻ったところでみんなが駆けつけてきた。


「サーシャ無事!?」

「ごめんな、一人にして


「敵はどこですか?」

「なんで石像がなくなってるの?」

「だぁ」


 私のいたところ以外花畑がだいぶ荒らされている。

 それに新しく増えた白い狐……今度こそ言い訳のしようがない。


「サーシャ……それってもしかして……」

 バレた。お姉ちゃん、ごめんなさい。

 そうなんです。私が悪女と呼ばれているレティ……。


「なんて可愛い狐なの!」

「雪のように真っ白」


「うちで飼おう」

「さすがサーシャ様。野生の狐も手なづけてしまうなんて」


 アホな子たちだった。

 だっ……大丈夫かな。


 心配になってくる。

 このお花畑見て、ハッピーは可愛いけど、そこじゃないところにも注目して。


 みんなハッピーに夢中で石像がなくなったことに、まるで積極的に触れないようにしているかのようだった。


「おい、爆発があったから来てみたら、あんなところにガキ共いるぞ」

「いいな。高く売れそうなガキじゃねぇか」


「育ちが良さそうな奴みると顔面殴ってぐちゃぐちゃにしてやりたいんだよな」

「一匹までにしとけよ」

「さすが親分」


 見るからにガラの悪いおっさんたち5人が騎竜に乗って現れた。

 あれが母さんが言っていた盗賊たちだろうか。

 ギルバートが私たちを守るように一歩前にでる。


「おい、やる気みたいだぜ」

「今、きゃーおかあちゃん助けて―って泣かせてやるからちょっと待ってろよ」


 相手からの挑発に誰も言い返さないが、そのかわり体内で魔力を練っているのを感じる。

 相変わらず自分の魔法は使うことができないけど、ラッキーの魔力をもらってから周りが魔法を使おうとしていたりするとそれを感じられるようになった。


 あれ、ちょっと待って。他にもう一つ魔法の反応がある。

 私たちがいるのとは別方向から、黒いマントにフードを被った数名の人現れた。


「全員放て! エアーアロー」

 彼らは盗賊の男たちへ風の矢を放つ。

 男たちはその攻撃に慣れていうのか、さっと払ったりかわしたりしてしまった。


 さすがと言ってはいけないかもしれないけど、盗賊として生きているだけはあって、そこそこ強いようだ。


「あなたたちが石像を破壊したのね」

「大事なシンボルを守れないなんて邪教レティ教のみなさんは何をしていたんですか? あっいつも隠れて逃げ回ることしかできないもんね」


 えっ……あの人たちが私の信者なの?

 目深にフードを被っているため、どんな人たちなのかはわからないけど、指揮をとっている人は女性のようだ。


「レティ様は、世界を救おうとされた偉大な方だ。あの方が生きていらっしゃれば今頃世界には愛が溢れていたはずだ」

 いやいや、絶対にそんなことないって。


 私なんてただの田舎の回復薬作ってただけだよ?

 レティ教どんな教育してるのよ。

 断固としてそんな逸話拒否したいわ。


「レティ、レティ、レティ、うぜぇな。そんなにレティのところに行きたいなら今日こそ逝かせてやるよ!」

 私たちは完全に空気になり、レティ教対ゴロツキたちの間の戦いが始まろうとしていた。


『ごしゅじん様、助けますか?』

 ラッキーは私のことは助けてくれるけど、レティ教になるとそれは完全に別だと思っているようだった。


「だぅ!」

 別にレティ教を好きなわけではないけど、さっき舐めた口を聞いて来たゴロツキをそのまま返してやるほど優しくはない。


 もう、再起不能になるくらいまで……。

 私がそう思っていると、ラッキーたちよりも先にマッシュたちが動いた。

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