第37話 懐かしい子との再会

「誰に口を聞いたのか教えてあげた方がいいようね。火炎のパペット」

「サーシャの前で汚い言葉を使うなんて許せない。大樹のハンドマン」


「随分馬鹿にしてるけど、俺たちが誰か知らないようだね。薄氷の千本桜」

「本当だよ。ここで鉢合わせしたことを後悔させてやる。召喚獣……紅色スライム」


 お姉ちゃんたちの使っている魔法が前と比べても強化されていた。

 炎の人形に巨大な木できた手、それに研ぎ澄まされたような鋭い刃に紅色のスライム……紅色のスライム?

 きっと、何か特別な効果があるのかもしれない」


「ハダス、なんでお前だけ手加減してるんだよ」

「いや、魔力すっからかんで。これしか出せなかったけど、こいつはほら自立型でどんどん分裂していくから。特にここなら……」


 紅色のスライムは地べたに落ちていた草を食べると二匹に分裂した。

 それがどんどん数を増やしていく。


「弱くても戦い方があるんだよ」

「なんなんだ、あのガキ共」


「ただのガキじゃねぇぞ」

「逃げろ!」


 ゴロツキたちはさすがに生き残ってる危険を察知する力もあるのか、急に慌てて避難しだすけど、お姉ちゃんたちを怒らせた時点でもう遅い。

 魔法が襲い掛かる。


「迎撃しろ」

「できるならやってみたらいいんじゃない」


「やっぱり無理だ。逃げるの優先!」

 散り散りに逃げるゴロツキたちに紅色スライムたちが回り込む。


「雑魚スライムになんか負けるほど弱くないんだよ」

 5匹のスライムが一斉に飛び掛かるが、それを一撃で撃退されてしまう。


「ふっ俺たちだって、伊達に盗賊なんてやってないからな」

「スライムはただの足止めだけどな」


「そうだったー!」

 ずいぶんノリのいいゴロツキたちは、背後から襲い掛かるマッシュたちの魔法に男たちはなすすべなく、あっという間に一網打尽にしてしまった。


 あのゴロツキたちもそこそこ強いと思ったけど、マッシュたちはかなり強い。

 やっぱり魔法使えるのはいいな。


 私も自分で魔法使えるようになりたい。

 ゴロツキたちはマッシュの木の魔法によって縛り上げられてしまった。


 もちろん殺したりはしていない。

 盗賊はこの後、貴重な資源として鉱山などで再利用される。


 しばらくここで反省してもらって、家の人に言って後で回収してもらえばいい。

 それよりも、問題はレティ教の方だ。


「あなたたち何者?」

「俺たちは……サーシャ護衛団だ」

「ばぶ?」


 ギルバートもっと名乗るべき名前があるだろう。

 あなたはこの国の第二王子だよ。

 そんなの名乗ったところで誰も理解してくれるわけがない。


「なるほど、そこにいられる方がさぞ高貴な生まれの子だということは理解した。私たちはあなたたちと敵対するつもりはない。ただここでレティ様の守護獣様を守っていたかっただけなの」


 理解する人いた。

 周りが子供扱いされてアホな子ばかりだったから、つい油断してた。


「ここの花畑もあなたたちが?」

「そうよ。この花畑はレティ様が大好きだった花だから」


「今のところ私たちはあなたたちと敵対するつもりはないから、そのフードを取ってくれない? 顔のわからない人たちを警戒するなって言われても難しいでしょ」

「すまなかった」

「だぁーあ」


 彼女がフードを取るとその顔に私は見覚えがあった。

 もしかして、フィカ?


『ごしゅじん様、さすがです。ダークエルフ族は長寿ですからね。あの頃からまっとっている柔らかい匂いも変わってませんね』


 ラッキーは彼女を覚えていたようだ。

 あの小さな子がこんなに大きくなり、しかも私が助けたことを覚えていてくれたなんて驚きだった。


「ダークエルフなんて珍しいわね」

「えぇ、私たち一族は回復魔法協会から目の敵にされていたから。レティ様に助けてもらった母も死んでしまったわ」


「それは大変だったのね」

「でも、そのおかげで私たちは今心からレティ様を愛することができているわ。そう言えばあなたたちは守護獣の九尾様がどうなったか知らない?」


「知らないわ。何かここで争ったような音が聞こえてきて、私たちが来た時にはその白い子狐がいただけよ」

「その子は元々あなたたちの狐じゃないの?」


「違うわね。でもサーシャが連れて帰るみたい」

「狼犬に子狐……まさかね。1年前にフェンリル様が消えて今度は九尾様がどこかへ消えてしまったわ。この世界から段々とレティ様はいたことが忘れられていってしまうけど、私たちは少しでもレティ様がこの世に残した証を守るために動くわ」


「魔物たちは人を襲ってるんじゃないの? そんなことをするからレティが悪者になるんじゃないの?」

「それも一理あるわ。だけどね、世界は白と黒だけで出来ているわけじゃないの。魔物たちが暴れたのはレティ様が無残に殺されたからよ。それに今暴れている魔物がレティ様が飼っていた魔物ばかりだと思う?」


「どういうこと?」

「私はずっと長く生きてきたわ。レティ様にも会ったことがあるくらいね。世界の見え方は権力を握った人間が見たい景色を見せているのよ。あなたたちが本当にレティ様について知りたいなら鳥の悪魔、マモン様を訪ねるといいわ。レティ様がどれほど人や魔物を助けてきたのかきっとわかるはずよ」


「悪魔? そんなのまで助けるなんてそれこそ世界の敵じゃない」

「そうね。でも知ってる? ダークエルフにもいい人もいれば悪い人もいたのよ。人間にはいい人しかいないのかしら?」


「それは……」

「あなたはまだ若いわ。そこにいる高貴な方を守りたいなら種族や外見で判断してはダメ。その人がどんなことを言ったのかではなく、その人がどう行動したのかを見て判断することね。長生きしている私からの最後のアドバイスよ」


「ちょっと、まだ聞きたいことが……」

「あなたたちのお迎えが来たようよ。私たちレティ教はいつでもあなたたちの側にいるわ。世界が平和になるその時までね。また運命の糸が混ざり合えば会いましょう」


 まずい。

 フィカはなんかカッコよく言って去って行ったけど、絶対にまた会う予感しかしない。


 それにしても悪魔のアモンか。

 そんな子うちにいたかな?


「マーガレット! マッシュ! ギルバート! ハダス! あんたたち私が言ったこと聞いてなかったのね! サーシャが怪我したらそうするつもりだったのよ!」

「お母さん、あのね、マッシュが言い出したことなの」


「お姉ちゃん、ずるい!」

「マッシュ、可愛い弟なんだから姉を守るのよ」


「マーガレット、それを止めるのがあなたたちの勤めでしょ! このバカ王子たちも! 何かあったらどうするの!」

 私たちは、家から脱走したことに気づいたお母さんにこっぴどく怒られていた。


「お母さん、盗賊捕まえたし、それでチャラとかに……」

「できるわけないでしょ! サーシャまで連れ出して! 本当にバカなお姉ちゃんたちで困りまちゅね」


「だぁ」

「ところでその白い狐は?」


「これは、サーシャの新しいペットかな?」

「ダメよ。うちではもうラッキーがいるんだから、これ以上ペットは飼えませんよ。いい人に拾ってもらえるよう、元居た場所に返してきなさい」


「でも……」

「でもじゃない」


「コーン」

「可愛く鳴いてもダメなものはダメ」

 お母さんはハッピーを置いて馬車にみんなを乗せてしまった。


「だーう!」

『ご主人様―! すぐに会いに行きます。今しばらくお待ちください! 必ず会いにいきますから!』


 せっかく会えたハッピーは花畑の中に置いてきぼりになってしまった。

 馬車の中で私は大きな声で泣いた。


 ハッピーが私の声を頼りに追ってこられるように願いながら。

 そして私たちはみんなで仲良く大目玉をくらって、しばらく外出禁止を言い渡された。


 今回脱走したことで、新しく私たちの見張りをつけると言われてしまい、私たちの家で新しい護衛兼、家庭教師が雇われることになった。

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