第34話 1歳になりました。モフモフ狐さんが石化してるって。
「サーシャ、お誕生日おめでとう!」
「でとー!」
私が生まれてから1年が経った。
今ではかなり言葉も話せるようになったけど、あまり急激に成長すると怪しまれるというマッシュの助言により、未だに赤ちゃん言葉で話している。
最近ではラッキーをお供に一人で歩けるようになっていて、家の中を探索するのが日課になっている。まだすべての部屋を回れたわけじゃないけど、なかなか色々な発見があって楽しい。
「サーシャ、これ俺からのプレゼントだ。サーシャを常に守れるようにって精霊石でできたペンダントにしたんだ」
「ギルバート様、ありがとうございます。でも1歳の子供にペンダントは首が閉まってしまう可能性もありますから、もう少し大人になってからお渡ししますね」
「ギルバートはバカなんだな。サーシャ様のこともをもっと考えなよ」
「ハダスは何を準備したんだよ」
「僕はこれ、賊に襲われても自分を守れるようにってドラゴンの牙でできた世界に一本しかない特別製のナイフさ」
「ハダス様、1歳児にナイフを送るバカがどこにいるんですか。隣国の王子じゃなきゃ国外追放ですよ」
「ハハハッ、お前だって怒られてんじゃん」
「くっ……」
「まったく、ギルもハダスもそんなんじゃダメに決まってるでしょ。はい、サーシャ。ハチミツ入りドロップだよ。最高級の……」
「マッシュ、赤ちゃんにハチミツは毒になる場合があるからまだ食べさせられないし、飴玉なんてあげて喉につまらせたらどうするの」
今日は身内だけで行う誕生日会だった。
ちょっと前にお披露目会をしたばかりだったのに、誕生日会はまた別でやるらしい。
前回のお披露目会ではハダスが襲われたり、悪いことがあったせいで、今回改めて仕切り直しをするようだ。
あれから、大きな問題は特に起きていない。
このまま平穏に過ごせれば最高なんだけど……ハダスのお父さんの体調があまり良くないらしく、ハダスがたまに暗い表情をしている時がある。
でも、さすがに回復薬を他国の王へ送ることは難しいし、症状がわからないと対処法も変わって来てしまうから、今のままだと助けてあげることができない。
「せっかくうちの国から取り寄せた最高級ナイフだったのに」
「もう少し相手の立場になってプレゼントを準備しましょうね。そんなんじゃせっかく送ったプレゼントも、街の質屋さんへ持ってかれてすぐに換金されてしまうわよ」
お母さん……まるで実経験でも話しているかのように、具体的な内容だった。
お父さんの顔が病気とは別で青ざめているけど、大丈夫そうだろうか。
ギルバートとハダスもマッシュと一緒に私のお母さんに怒られていて、なんだか小さなお兄ちゃんが増えたみたいだ。
『ごしゅじん様、今の表情とっても可愛いです』
「ぶー」
ラッキーが私を好きなのはわかっているよ。
私はラッキーの身体に飛びつく。可愛い奴め。
そう言えば、ラッキーから私へのプレゼントは?
『わん』
「キャッキャ」
こういう時だけ犬のフリするなー!
思わずラッキーの誤魔化し方に笑ってしまった。
本当にラッキーは可愛い。
そう言えば、他の子たちは今どうしているのだろう。
私が生まれてからというもの世界中で暴れていた魔獣の被害は減少傾向にあるらしい。
だけど、まだ一部では暴れている魔獣もいるらしく、もし私が育てた子なら会いに行って暴れるのを止めるしかない。
「だーだーだー」
『他の魔獣ですか? ここから一番近い所だと狐のハッピーが自分を石にして封印しています。もう死んでるかもしれないですね』
「だぁ?」
ハッピーはなんで石になっているのだろう。
『ハッピーはごしゅじん様を助けられなかったことを後悔して自分に呪いをかけたんです』
「ぶー」
なんとか助けてやることはできないのだろうか。
ずっと石になっているなんて、私が弱かったばかりに……。
『会いにいきますか? 呪いが解けるかはわかりませんが』
「ばぶ!」
もちろんだ。家族に心配はかけられないけど、やっぱり私のせいで苦しめた子がいるなら会いにいきたい。
「こらサーシャ、今度はどんな悪だくみをしているんだ?」
そう優しく言いながら私を抱き上げたのはマッシュだった。
マッシュの肩にはギンジが乗っていて、今の話を通訳したようだった。
『サーシャ様は脱走を企てているみたいですよ』
さすがに魔獣の石像を見に行くなんて話、マッシュは反対するかと思ったけど、私の予想外に助け船を出してくれた。
「お母さん、サーシャにまともなプレゼントを準備できなかったから、石化魔獣のところにある秋美草のお花畑に連れて行ってやりたいんだけどいい?」
「ダメよ。あの辺りは最近、魔獣を復活させようとするレティ教や、その人たちを狙った盗賊がでるって話だから」
「盗賊くらい、僕たちが倒してやるから大丈夫だよ。それにそんなこと言ってたら花畑なんて一生見せてあげられないよ」
「絶対ダメよ。もう少し状況が改善したら連れて行ってあげるからわがまま言わないの。それじゃプレゼントも渡したし、サーシャはそろそろお昼寝させる時間よ。あなたたちは勉強の時間でしょ」
私は全然眠くないけど、寝台へと移される。
もちろん寝はしないんだけど、お昼寝の時間は寝台の上にいるようにしている。
お母さんがいるうちは……。
部屋から両親がでていくと早速マッシュが私の側へとやってきた。
「サーシャ待ってな。可愛い妹の誕生日に何もやってあげれないお兄ちゃんでいたくないんだ」
「マッシュ……ダメよ。お母さん行くなって言ったでしょ」
「そうだよ。マッシュくんそういうのはよくないよ」
「そうだぞ。ダメだと言われたことは守らなきゃダメだ」
マーガレット、ギルバート、ハダスはそんなことをいいながら、汚れてもいい服装に着替えだした。お姉ちゃん……子供とは言ってももう少し恥じらいを持って欲しい。
三人ともマッシュをまったく止める気がない。
いや、むしろマッシュよりも行く気かもしれない。
「でも、サーシャがそこまで行きたいって言うならお姉ちゃんが守ってあげるしかないわね」
「それなら俺もサーシャ護衛団の団長としては行くしかないな」
「そうだね。サーシャ様に素敵なものを見せてあげられるなら行くしかない。花の旬は短いからね」
たしかに私のせいだけど、さらっと話せない子をダシにしてみんな遊びに行くつもりだ。
目をキラキラと楽しそうに輝かせている。
なんで子供って悪だくみする時になるとこんなに楽しそうにしているんだろう。
「ところでお姉ちゃんどうやって行こう?」
「マッシュバカね。そんなの護衛の馬車を奪えばいいのよ」
「マーガレット、公爵家の長女とは思えない発言だね」
「じゃあどうするのよ?」
「そりゃあれしかないでしょ」
「あれ?」
「護衛団の力を見せる時でしょ」
「なるほどね。ハダス任せたわよ」
「任せて。僕はこの日の為に生まれて来た気がする」
ハダスがものすごく大袈裟なことを言いだした。
私たちは窓からそっと屋敷を抜け出し、外へと向かう。
そういえば、屋敷の外へ出たのは初めてかもしれない。
ちょっとドキドキする冒険の始まりだ。
そんなワクワクが私のテンションを自然とあげた。
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