第33話 マーガレット(サーシャ姉)視点2
マッシュたちが去ったあとで私はお父さんへ駆け寄った。
「お父さん!」
「マーガレットまで起きていたのか。大丈夫だ。部屋へ戻りなさい。明日このことを話そう」
「本当に大丈夫なの?」
「あぁ、神様が私をまだ生かしてくれるようだ。だけど、そのためにはやらなきゃいけないことがある」
お父さんは優しく私の頭を撫でてくれた。
私はその手を強く握り返してから、踵を返すと部屋へと駆け戻った。
いったい、何が起こったのか、目の前で起こったことは事実なのか。
私はそのあと考えがずっとグルグルしてなかなか眠れなかった。
翌日、私は一人でお父さんの部屋へ訪れた。
お父さんはここ数年で一番顔色が良かった。
「もう大丈夫なの?」
「あぁ、マーガレットには話しておかないと思っている」
「私にだけ?」
「あぁ、マッシュにもいずれ話す必要があるけど、マッシュはもう当事者になっているからね」
「昨日のこと……やっぱり言わない方がいいんでしょ?」
「あぁ」
夜中私の中である一つのおとぎ話ができあがっていた。
それは、絵本にでてくる悪女レティのことだった。
レティは回復薬を作り、魔獣を従えていたらしい。もし、マッシュやそのペットを従えていたとしたら……。
私はとても嫌な想像をしていたけど、お父さんの言葉でそれは確信へと変わり、でも希望へと変わった。
「マーガレットは信じられないかもしれないけど、サーシャは誰かの生まれ変わりかもしれない」
「それって……レティ?」
「それはわからない。だけど、過去を含め僕の知っている限りあの回復薬を作れる人間を知らない」
「それじゃ、サーシャを通報しなきゃいけないってこと!? そんなのダメだよ!」
「もちろん、そんなことしないよ。サーシャは僕の大切な娘で僕の命の恩人だからね。ただ、あの子が本当に転生者なのかは慎重に判断する必要があるんだ。もし転生者なら絶対にバレないようにしないといけない」
「そうよね」
サーシャがどんな運命に導かれ生まれて来たとしても、サーシャは私の妹であって、必ず守らなきゃいけない存在であるには変わりがなかった。
「これはマーガレットにしかお願いできないことなんだけど、マッシュとサーシャをそれとなく見張って欲しいんだ」
「私が?」
「そう。あの二人はまだ子供だから。もちろんマーガレットに危険なことをお願いするわけじゃない。だけど、もし僕がいないところで何かあったらそれとなくあの二人のフォローをして欲しいんだ」
「もちろんいいわ」
「良かった。このことは二人には秘密にね。もちろん母さんにもだ」
「仕方がないわね。お母さんには心配かけられないし」
「今でも僕のことで十分心配かけているからね」
「お父さんの病気の方はどうなの?」
「ほぼ回復した。回復魔法協会がしていた回復術はきっと対処療法でしかなかったんだと思う」
「対処療法?」
「あぁ、根本的な病気を治さずに症状だけを抑える方法のことだよ」
「それって……」
「そっちはまだ確定じゃないから、詳しくは言えないけど回復魔法協会はわざと回復させていない可能性があるってことなんだ」
それを聞いて私は思いっきり唇を噛みしめ、握っていた手に力が入った。
お父さんは隠していたけど、今まで回復魔法協会に生かされていると思っていたから、多額の寄付や無茶なことにも耐えてきていた。
それなのに……殺してやる。回復魔法協会を今すぐどうこうできるとは思ってはいないけど、だけど必ず私たちへしてきたことを復讐してやる。
その時、私はそう誓った。
それからも、サーシャとマッシュはバレていないつもりかもしれないけど、私からすれば奇行を繰り返した。その度に注意してやりたい気持ちにかられたけど、私はあくまでも監視していないといけない。
もし、サーシャが転生者であるなら、確実に私よりも年齢が上のはずだしきっとお父さんに情報を流していることもバレる気がする。
できるだけ私は一緒にいながらも二人にとって空気でいるように心がけた。そのうちギルバートが家にくるようになり、そして隣国の王子ハダスまで家に居つくようになってしまった。
私がこんなことを言うのはおかしいのかもしれないけど、悪女レティが絵本の主人公になったように、いつかサーシャを描いた絵本が出回るような気がしている。
その時に私は悪い姉ではなくて、できればサーシャを支えた善き姉でいたい。
そう思いながら、私はギルバートから言われた護衛団の話に乗っかることにした。
遅かれ早かれサーシャを守る組織は必要なのだ。
冗談でも、軍隊を持てるだけの力をギルバートもハダスも持っているのだ。
これを利用させてもらわない手はない。
私は姉として、お父さんの恩人のサーシャを守ると決めたのだ。
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