第41話 『私が子供の児戯に付き合ってやるのはサーシャ様だけだ』
アンラ王国の城下町はまだ人通りも少なく、まだみんな寝ているようだった。
私たちはそのまま街を突っ切り、居眠りしている門番の上を飛び越えて、お城の飛び窓へと飛び込んだ。
窓に鍵もかけないなんて不用心だけど、門番もいるし二階か侵入されるとは夢にも思っていなかったのだろう。
「だうだう」
失礼しますと小さな声で呟きながら廊下へと忍び込む。
王様の部屋がどこにあるのかわからないけど、しらみつぶしに探していくしかない。
ラッキーにお願いして、優しくなでると、これまで隠れていたアルフが私たちの前をいきなり飛び始めた
「あんにゃい?」
上下に動くアルフを信用して進んでいくが、大きな甲冑や怖い大きな絵などを蝋燭の灯りに照らされて見ていると、なかなかの恐怖感がある。
私はラッキーを思いっきり抱きしめ、身体に力が入る。
『怖がっているご主人さまも可愛いです』
こういう安定してアホ犬になってくれているってことは、周りに危険がないということで少し安心する。
アルフはとても不思議な子だ。
私たちがちゃんとついて来ているのか確認しながら先導する姿はどこか自信なさげなようだった。
「だうだう」
廊下を進んで行くと、一人のメイドが慌てて部屋から飛び出してきた。
「大変です! 王様が!」
慌てて走り去っていくメイドを確認しながら、さっとその部屋に忍び込む。
あの様子では、そう時間はなさそうだ。
部屋の中は一人で寝ているのは広すぎるのではないかと思うくらい広い。
中央に寝かされたベットの上まで行くと、痩せ細り髪の毛が抜けた老人が一人寝ていた。
やっぱり、あの時現れた老人は王様だったようだ。
彼は口をパクパクとさせ、下顎だけが動くような浅い呼吸をしていた。
「だいじょぶ」
でも……ぱっと身体を見ると、そこには遅行の毒の症状が見られた。
もちろん、高齢だから多少の病気もありそうだけど。
私は回復薬と解毒薬を取り出して蓋を開けると、誤嚥しないようにゆっくりと数回にわけて口の中に流し込む。
何か自然と毒を摂取しているなら辞めさせないといけないし、上手く説明できるかわからないけど、それは後で考えればいい。
環境が違うと食べられる野菜が毒になるなんてこともあるし。
それまで探すとなると、少し大変になるけど原因があるなら潰しておかなければ、何度も同じことを繰り返してしまっては意味がない。
毒になるには必ず原因があるのだ。
元気になったら思い当たることがないか聞いてみるしかない。
白濁に濁っていた目には段々と生気が戻り、肌の血色もよくなっていく。
何度か目をパチパチとした後、急に大きく呼吸をして咳をした。
それとほぼ同時に廊下から人の走る音が聞こえてきた。
「レティ様、お会いできて嬉しい限りです。一度ベットの下へ」
「さーさ」
彼に私の名前を伝えようとしたけど、ラッキーが私を咥えるとそのままベットの下へと隠してくれた。
部屋の中に数人が流れ込んでくると共に聞こえる人の話し声。
「やっと死んだか?」
「第二王子、不謹慎だぞ」
「兄さんだって笑顔になってますよ。これでやっと私が王位につける」
「お前の気持ちはわかるが、王位は俺のものだ」
「ハダスの暗殺はどうするんだ?」
「決まってるだろ。あいつには余計な禍根を残さないように時を見て死んでもらう。お前ももちろん殺すが、葬儀が終わるまでは停戦する。わかってるな」
「もちろんそれでいいよ。民からの信頼厚い王を演出しなければいけないからね」
実の父親が亡くなりそうだったというのに、この二人はどうしてこんなことを言えるのだろう。思わず頭を上げるとベットにドンと頭をぶつけてしまった。
まずい。
少し涙目になりながらラッキーを見るも、口をパクパクさせてこうやって伝えてきた。
『痛がってるサーシャ様も可愛いです』
この犬、しばいてやろうか。
私がベットの下で頭を押さえて涙目になっていると、ベットの上から声が聞こえてきた。
「お前たち二人の王子には悪いことをしたと思っている。親の死に目を悲しめないような子供に育ててしまったのは私のミスだ」
「なっ、なんで? 死んだんじゃないのか?」
「はかったのか?」
「取り繕うとすらしないとはな。お前たちが回復魔法協会に頼んで私に毒を飲ませていたことも知っている。本当にがっかりだ」
「レティ教なんていう邪教にどっぷり漬かっているお前に何がわかる。俺たちはこの国の王になって正しい歴史を作るんだ」
「兄さん、今ならやれる」
第二王子が剣を抜くと、近くにいた王様付きのメイドの首に剣を突き立てる。
抵抗する暇もなく、その場へへたり込んでしまった。
「バカな。もう後戻りできないぞ」
「邪教信者を討ち取るチャンスは今しかない。そのために人払いしてあったんだから」
二人が王様へと斬りかかっていく。
どうやって育てたらこんなバカ息子に育つというのだろう。
「だう」
『サーシャ様は優しいですね』
ベットの下からラッキーが飛び出すと、王子二人を一瞬のうちに壁へと叩きつける。
「助力感謝致します」
王様は誰に言うわけでも少し大きめにそう言った。
きっと私へ言ってくれたに違いない。
「なんだこの犬は?」
「関係ない。ここで引いたとしても逃げ切るのは無理だ。行くぞ。ソードアンデット」
第一王子の持っていた剣が怪しく光ると、辺りに紫色の霧と共にアンデットが召喚される。
「アイアンソード!」
第二王子の剣が白く光ると今度は鉄のゴーレムが出現した。
すごい。あれは本人たちの魔力を媒介にしてあの剣から召喚することができるようだ。
あれがあれば、マッシュたちが言っていた私の護衛団とかっていうお遊びにも使えるかもしれない。
部屋の中だというのに、二人はいきなりおかいなしに暴れ出そうとした……。
そう暴れ出そうとした。
ラッキーが尻尾を鞭のようにふるうと、アンデットは一瞬で灰になり、鉄のゴーレムは鉄の塊になった。
『私が子供の児戯に付き合ってやるのはサーシャ様だけだ』
カッコ良く言ってるけど、私遊ぶのに付き合ってもらっていたのかと地味にショックを受ける。
「なんだこの犬」
「もしかして……邪教崇拝だけじゃ飽き足らず、あの災厄の魔女に魂を売ったのか?」
「この犬が魔獣王フェンリルだっていうのか?」
「じゃなければ俺たちの一個師団を軽く倒せる魔法をこんな簡単にやられるわけがないだろ」
「兄貴ここはいったん逃げるか?」
「だけど、ここで殺さなければ俺たちは一生王位につけないぞ」
「そうは言っても命あっての物種だろ。それに俺たちには回復魔法協会がついてる。王位候補じゃなくなったとしてもなんとかしてくれるはずだ」
「クソ。一度引くぞ」
「あのけんほちい」
私が小さな声で呟くと、ラッキーはしっかりその声を聞いてくれた。
『かしこまりました。シェリー様へプレゼントします』
ラッキーが王様の部屋の窓を魔法でぶち破り、そっち方向へ誘導するように王子たちを攻め立てていく。
殺すつもりは元々ない。
ラッキーが本気だったら今頃二人はひき肉にされてしまっているはずだ。
「窓から飛ぶしかない」
「覚えていろよ。絶対にこの国の王になってやる」
王子たちは仲がいいのか悪いのか。
窓から飛び出そうとした瞬間に、ラッキーが二人の剣を奪い取ると、そのまま二人仲良く窓から消えていく。そこそこ魔法が使えるだろうし、死んではいないだろう。
外から魔剣がどうこうって聞こえてきたけど、あれはもうお土産にもらうことにしたのだ。
面白そうだからマッシュとマーガレットにでもあげよう。
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