第40話 ハダスのお父さんを助けるためにアンラ王国へ

「お父さんがいったいどうしたっていうんだ?」

「詳しくはわかりませんが、お兄様からできるだけ早急に国へ戻るようにと……」


「いや、僕は帰らないよ」

 ハダスはゆっくりと首を振りながらそう答えた。


「どうしてですか? 王様の意識がないんですよ。もし万が一何か起これば……帰らなかったことを後悔するかもしれませんよ!」

「お父さんのことは大好きだけど、昨日の夜夢にお父さんがでてきて、この国でサーシャを守るように言われたんだ」


「ハダス、夢よりも帰った方がいいんじゃない?」

 マッシュがハダスに帰るように促すが、ハダスは頑なにそれを受け入れようとはしなかった。


「僕のお父さんには特別な才能と魔法が使えるんだ。だから、あの夢は間違いなく本当のことなんだ」

 きっとハダスの言っていることは間違いないだろう。


 王様や貴族というのは血筋だけが凄いわけではない。

 持って生まれた特別な才能や能力があるものだ。


「だう」

 もし、回復魔法協会が対処療法だけをして病気が悪化しているのなら、助けてあげることもできるかもしれない。

 ラッキーだったらどれくらいで行けるのだろうか。


『ご主人様と二人旅ですね。それなら何日間でも大丈夫です。二人で愛の女神を探しに旅にでましょう』

「だーう」


 本当にふざけたことばかりを言っていて……。

 私が白い目で見るとラッキーがまともなことを答えてくれた


『花と水の都アンラ王国は行ったことはありませんが、周りの話を聞く限り、かかっても片道1日くらいかと』

 片道1日か。先日のこともありみんなで抜け出すということも難しそうだ。


 でも、そうなると私がハダスと一緒に行く理由がなくなる。

 マッシュに回復薬のことを打ち明けてもらうこともできるけど……。他に手段があるなら手段を探してからにしたい。


 打ち明ける人数を増やせば増やすだけ、私の周りの人を危険にさらすことになるのだ。

 私だけが殺されるなら仕方がない。


 いや、できればそれも避けたいけど、それよりもマッシュや他の家族が危険にさらされることの方が嫌だ。絶対に私のせいで迷惑をかけたくない。


 あの老人がハダスの父だとするなら、私の敵になるような悪い人間だとは思えないのだ。

 それならできるだけ、味方は増やしておきたい。


 それに……田舎でのスローライフで作った野菜の卸先に花と水の都と呼ばれているアンラ王国が加わってくれれば、きっと大忙しになるに違いないのだ。


「サーシャ様、何かハダス王子のことでお悩みですか?」

「だーう」


「なるほど。それでしたら……」

 ハッピーが私の耳元で囁く。

 周りに聞かれないように細心の注意を払ってくれている。


「私がサーシャ様の分身を作成致しましょう。ただ、効果は2日程しか続きません」

「だいじょーう?」


「マッシュ様もいらっしゃいますので、誤魔化すことはできるかと思います」

 それなら、その間にマーガレットのこともしっかり守ってもらいたい。


 隣国の王様の病気が治ったとして、いくらハダスがいるからといって、うちが疑われるなんてことはないと思うけど……。


 マーガレットがレティの生まれ変わりだなんて疑いはできるだけ早く晴らした方がいいけど、そのためにはどこかで回復薬が作られているとか、ここではない別の偽装なども必要になってくる。


 とにかく今は、ハダスの父親を助けるのが先決だ。

 私はその日の夜、みんなが寝静まったのを見計らって、ハッピーとマッシュに見送られラッキーと光の妖精アルフを連れて部屋から抜け出した。


 アンラ王国についたのは明け方だった。

 ラッキーがかなり頑張ってくれたっていうのはあるけど、話に聞くよりも近い感じがした。

 まだ辺りは暗闇に包まれ朝の少し肌寒い澄んだ空気が少し気持ち良かった。

「ばぶっ」


『これくらいなら休憩しなくて大丈夫ですよ。本来の大きさに戻れれば、この時間の半分で来れると思います』


 ラッキーはとても誉めて欲しそうに尻尾をブンブンと振っているので優しく首筋を撫でてやる。もう、なんて可愛いのだろう。


 私の中がラッキーでいっぱいになっていく。

 ラッキーはいつも本当に可愛い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る