第39話 ハダスの父
ハッピーが家にやってきてから、マッシュたちの動きは目に見えて良くなっていった。
潜在能力があるのはもちろんだったけど、なによりハッピーの教え方が上手かった。
言われてやらされているのと、自発的にやるのでは全然成長具合が変わって来る。
ハッピーはこれをやらないとどうなるかという最悪の想定をするのが上手かった。
具体的に言うと、剣術なんて使わないですむなら使わない方がいい。だけど、もし目の前で誰かが魔物に襲われていた時に、剣はあっても戦えない自分を想像させるのだ。
人は痛みや苦痛を避けようとする。
マッシュたちもただ漠然と守れる力が欲しいから、より具体的にどれくらいの強さがあればいいのかなどを目標にして訓練を始めたのだ。
それに伴って、綿毛の数がものすごく増えていた。
綿毛は人の強い感情により反応するようだった。
私も負けずに魔法を使うためにラッキーの魔力を身体の中で循環させる。
「サーシャ様は魔法の練習ですか?」
「ばぶっ」
私が一人、芝生の上で踏ん張っているとハッピーがそう声をかけてきた。
魔物には魔力の流れが見えるようだった。
「なるほど。ラッキーの魔力を練り込んでいるんですね。面白いですね。サーシャ様手を借りますよ」
ハッピーはそう言うと私の手を握ってハッピーの魔力も私の身体の中に流してきた。
その魔力はラッキーの魔力と私の魔力をより混ぜやすくなるようにしてくれているようだった。
「ばぁーあ」
「ラッキーはアホなので細かい魔力制御とか苦手ですからね。そこに少しだけサポートさせてもらいました。それをゆっくり混ぜ上げていけば人類で初めてすべての魔法属性を扱うエレメントマスターになれることも可能になりますよ。ラッキーはアホですけど、魔法において右にでるものはいないくらい得意ですからね」
『アホ、アホ言ってるんじゃない』
ラッキーはそう言いながら魔法を褒められて嬉しいのか尻尾がブンブンと左右に振られていた。本当にわかりやすくて可愛い。
「だーう」
いや、でもエレメントマスターとかなるつもりはないよ?
私は田舎でのんびりスローライフできればいいんだから、そこそこの魔法を使えれば十分。
その時はハッピーもついて来てくれるでしょ?
「もちろんです。もう二度とこの手を離すことはありませんのでご安心ください」
ハッピーが優しく私の手を握っててくれる。
「ハッピー先生、サーシャとばっかり遊んでないでこっちにも教えてください!」
「あはは、君たちはセンスがいいからね。全体を把握するためには少し離れたところから見ていただけだよ」
そういうとハッピーはまた指導に戻っていった。
私はさらに、魔力を身体の中で循環させる。
ハッピーの魔力を入れてもらったことで、魔力をより自在に動かせるようになった気がする。私が魔力に集中していると、いつの間にか目の前に一人の老人が立っていた。
「だう?」
「あなたがサーシャさんですか?」
「あいっ」
一応返事をしておく。どうやってここに入ってきたのだろう?
「私はもうそう長くありませんので、手短にお話します。回復魔法協会があなたの姉をレティの生まれ変わりじゃないかと疑い始めています。できるだけ早く対策を考えてください」
「どうちて?」
「九尾の狐が解放されたことで、疑いが強まったようです。もう時間がありません。私の息子は単純で猪突猛進なところもありますが、悪い子ではありません。あの子に王位継承争いは難しい。このままここで幸せに暮らさせてあげてください。どうか第三王子をよろしくお願いします」
そう言うと、老人は目の前から消えてしまった。
第三王子……ハダスのことだろうか?
それなら今の人は……!?
「ハダス様! 大変です! ハダス様のお父様が意識不明になられたとただいま連絡がありました。至急国へお戻りください」
「お父さんが!?」
侍女が転びそうになりながら慌ててそう伝えてきた。
このことがきっかけで運命はまた大きく動き出すことに、私はまだ知らなかった。
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